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理不尽な恋が終わる刻 4(雪夜)
無我夢中で駅まで走ったものの、終電の時間はとっくに過ぎていた。
とりあえず自販機――
走ったせいで動悸が激しい……大きく息を吸い込んだら、思ったよりも冷たい空気に喉がヒュッと鳴ってゲホゲホッと咳き込んだ。
咽 ながら自動販売機の前まで来て、財布がないことに気付いた。
……ぁ……夏樹さんのとこで脱いだ時に、机に置いたんだった……
しかも、携帯もない……嘘だろ……どうすんの俺……今更取りに戻れないし……
自動販売機の横の壁にもたれて、ズズッと背中を擦りながら座り込んだ。
あ~俺ホント何やってんの!?
逃げてどうするんだ……
逃げたって、結末は変わらない。
事の真相を告げたことで、もう夏樹との関係は……終わった……
そう、終わったんだ……
夏樹さん、怒ってるだろうな……
途中で逃げ出した自分の意気地のなさが心底嫌になる――
膝を抱えて顔を伏せていると、足音が近付いてきた。
もし夏樹さんだったら……期待感と不安感が入り混じり、じっと息をひそめた。
雪夜がいる場所は自動販売機の陰で暗くなっているので、座っていれば見つかりにくいはずだ――
***
自動販売機に小銭を入れる音がする。
なんだ、誰かがジュースを買いにきただけか。
いいなぁ……俺も飲みたい……
「……?」
ポンと頭に重みを感じて顔を上げる。
「大丈夫?」
目の前に、夏樹がしゃがんでいた。
頭の重みは夏樹がペットボトルを乗せたせいだった。
反射的に逃げようとしたが、すばやく腕を掴まれまた座らされた。
「……っとぉ……逃げないで。とりあえず、これ飲んで」
まだ若干息を切らしている雪夜に、夏樹がペットボトルを渡してきた。
「ぁ……ありがとうございます」
小さい声でボソボソとお礼を言ってペットボトルを受け取ると、喉を鳴らして一気に半分飲み干した。
「っゲホッ……」
「あぁ、ほら。ゆっくり飲まなきゃ……」
咳き込んだ雪夜の背中を夏樹が撫でる。
その手が変わらず優しくて、胸が痛い。
「……なんで……っここに?」
「……雪夜を迎えにきたんだよ。もう電車ないし、財布も携帯も置いて飛び出していったから、多分ここら辺にいるだろうと思って」
夏樹が柔らかく微笑んで、財布と携帯を見せる。
「わざわざすみません……」
あぁ、情けない……最後の最後まで夏樹さんに迷惑かけてる……
雪夜が受け取ろうとすると、財布と携帯がサッと遠ざかり、雪夜の手が宙を掴んだ。
「っ!?」
「帰るよ。ほら、立って」
え、帰るってどこに……?
一瞬意味がわからず、差し出された夏樹の手と夏樹の顔を交互に見た。
「え、いや、あの俺……」
「財布と携帯は俺の家で渡す。行くよ」
「でも……俺……」
「歩けないなら抱っこする?」
夏樹が雪夜に向かって両手を広げた。
「あ、歩けますっ!!」
笑顔のまま有無を言わせない迫力で促され、ノロノロと立ち上がる。
前を歩く夏樹の背中を見つめながら、雪夜は複雑な想いを持て余していた。
なんで迎えに来てくれたの?―――バカな俺が財布と携帯を忘れてたから。
なんでまた家に連れて帰ってくれてるの?―――もう電車がないから。
夏樹への問いかけはすべて答えが明瞭すぎて、声に出すまでもなかった。
真実を知った後なのに、それでも俺なんかの心配をして来てくれるなんて、どこまで優しいんだろう……
雪夜が自問自答している間に夏樹の部屋に着いた。
***
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