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理不尽な恋が終わる刻 5(雪夜)
「入って」
「……はい」
夏樹がドアを開けて雪夜を玄関に押し込んだ。
背後に感じる夏樹の圧が強い……
足が重い……何とか靴を脱いで、足を引きずるようにして奥に進む。
「座って」
鍵をキーボックスにかけた夏樹が、雪夜に座るよう促した。
「……ぁの、財布と携帯を……」
「話が終わったらね。さっきの話、まだ途中だったでしょ?」
「……はい」
俺からの話はあれが全てだ……続きがあるとすれば……それは夏樹さんの方だ。
やっぱり言い逃げは良くないよな。
真実を知って、夏樹さんには俺に言いたいことが山ほどあるはずだ。
俺はそれを全て聞く義務がある。
「わかりましたっ!どうぞっ、何でも言って下さい!!」
夏樹に事の真相を告げると決めた時に、覚悟も決めたはずだ!
俺だって一応男なんだから、ちゃんと腹をくくれっ!!
大きく息を吸うと、冷たいフローリングの上に正座をした。
夏樹の口からどんな罵詈雑言 が飛び出しても受け止めるつもりで、ギュっと目を瞑って、膝の上で拳を握りしめた。
近くに夏樹が座る気配がして、思わずギクリとする。
そうか……もしかしたら殴られたりも……いやいや、そうだよな。
俺が逆の立場だったら、一発殴るくらいじゃ足りないし……
言葉以外のパターンもあることに今更ながら気がついて、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「……雪夜」
夏樹の手が頬に触れた。
「っ!!」
くるっ!?
来るべき衝撃に備えて、全身に力を入れた。
「好きだよ」
「……っ?」
ん?あれ?痛く…ない…?
「大好きだよ」
あ、これ夢ですね。俺駅で寝ちゃったのか。
ハハッ、この期に及んで、夏樹さんに好かれようだなんて……未練がましいな……
「雪夜?」
って、さすがに夢じゃないからっ!!
パチッと目を開けると、夏樹の顔がすぐ近くにあった。
「っ!?え、あの……夏樹さん?」
「聞こえてる?」
夏樹が雪夜の頬を撫でながら、覗き込んでくる。
「あ……はい……いや、あの、俺たぶん耳おかしいんで耳鼻科に……」
「大好きだよ」
聞き間違いじゃなかったぁああああああああ!!!
「おおおおおおかしいでしょっ!!!!なんでっ……もっとほらっ他にあるでしょっ!?ふざけんなっとかっ、し〇!!とかっ、このオ〇マ野郎っ!とかっ!俺を、罵倒する、言葉がっ!!何でよりによって……その言葉なのっ!?」
思わず立ち上がって、ファイティングポーズで夏樹に力説する。
ある意味、夏樹のその言葉は罵詈雑言よりもダメージは強い……うん、俺の心を痛め付けたいなら確かにその方が効果的だけれども……
「え……雪夜ってそういうのが好きなの?」
「いや、そうじゃなくてっ、そうじゃないけどっ!!夏樹さん怒ってるんでしょ!?もっと俺のこと詰 って罵 って下さいよ!!俺……殴ったり蹴ったりされても仕方ないことしたんだしっ!ちゃんと……何言われてもっ、受け止めるつもりでっ……!!」
なんだか、もう自分がよくわからない……騙していたのは俺なのに、なんで俺が夏樹さんを責めてるんだろう……
今こうやって声を荒げているべきなのは、夏樹さんでしょ?
俺は一体何を必死になって……
「なんで俺が怒るの?」
「……え?」
興奮して大きな声をあげる自分と対称的な、驚くほどに落ち着いた夏樹の声に拍子抜けしてしまった――……
***
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