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理不尽な恋が終わる刻 6(雪夜)
「……雪夜、おいで」
ふっ、と微笑んだ夏樹が、自分の膝をポンポンと叩き、両腕を広げて雪夜を呼んだ。
「おいでって……」
「膝の上」
「ぇっ!?」
それってつまり……?
あの行為の時にはよくその体勢になるが、雪夜からそこに跨 ったことはないので躊躇 していると、夏樹が
「大丈夫、何もしない。雪夜を抱っこしたいだけだよ」
と、苦笑した。
え、抱っこ?
夏樹がもう一度雪夜を呼んだ。
「……はい」
ゆっくり近づいていくと、夏樹が手を伸ばし雪夜の腰を掴んでグイッと引き寄せた。
夏樹の膝の上で向い合せになると、そのまま夏樹の胸に抱き寄せられた。
なんで俺……この状況で抱っこされてるの?
身体を硬くしている雪夜を落ち着かせるように、よしよしと頭を撫でながら夏樹が話し出す。
「あのね、正直びっくりした」
「……はい」
そりゃそうだろう。
「俺は、ずっと雪夜に後ろめたさを感じてたから、そうじゃなかったってわかって安心した」
夏樹は、雪夜に言い聞かせるかのようにゆっくりと優しい口調で話す。
「……ごめんなさい」
すべては俺の嘘だもの……夏樹さんは何も悪くない……
「怒って当然ですよ……俺……夏樹さんの良心に付け込んで、ずっと騙してた……」
「うん、騙されてたのは驚きだけど、別に怒ってないよ」
「へ?」
「そうだなぁ~……雪夜が、本当にあのことをネタに俺を陥れて強請ったり、騙すような嫌な奴だったらきっと怒ったと思う」
「……俺、その通りの奴ですよっ……!?」
ガバッと顔をあげて夏樹を見る。
「ん~?ははっ……雪夜は違うよ」
夏樹が笑いながら雪夜の額を軽く指で弾いた。
「違わなっ……痛 っ!」
「あのね、本当に人を騙すような人間は、あんなに無邪気に笑ったり泣いたり照れたりしない。ましてや自分の嘘にこんなに心を痛めたりしないんだよ。そもそも、雪夜は付き合ってって言っただけで、それ以外に何か俺を強請ったり騙したりしたことなんてあった?」
夏樹が雪夜の両頬を包み込んだ。
夏樹の声がひどく優しい。
「だ……けど……」
「雪夜のことだから、この半年間、俺にいつ話そうかずっと悩んでたんでしょ?泊まっていかなかったのも、騙してる後ろめたさから……でしょ?」
「……はぃ」
「雪夜がね……たまにひどく辛そうな顔をしてるのが気にはなってたんだよ。でも、俺が話しかけるとすぐに笑顔を見せてくれてたから、何となくそのままになってた。その時にもっと追及しておけば、こんなに長い間雪夜が苦しまずにすんだのに、ごめんな」
「夏樹さんは……何も悪くないです……これは俺の自業自得だから……」
「雪夜、ストップ!」
雪夜がまた自虐的になっているのを感じたのか、夏樹が途中で遮る。
「もういいから。ちゃんと話してくれてありがとね」
夏樹がギュッと腕に力を入れた。
雪夜の好きな夏樹の匂いに包まれて、昂っていた気持ちが徐々に落ち着いてきた。
そのまましばらく、夏樹は何も言わずに抱きしめてくれていた――
***
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