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理不尽な恋が終わる刻 9(雪夜)

「お~い、雪夜、お前どしたの?」 「え?」 「もう講義終わったけど、移動しないの?」  佐々木が目の前で手を振る。  ハッとして周りを見ると、もうほとんどの学生が教室を出ていた。 「うわっ、ごめん!ちょっと待って!」  急いでノートを鞄に詰め込んで立ち上がる。 「そんなに急がなくても、次の先生はどうせなかなか来ないから大丈夫だぞ~。それより、雪ちゃん何かあったの?」  隣で朝飯代わりのパンを食べている相川が、雪夜の鞄のベルトを引っ張った。 「え、いや……何でもないよ。ちょっとボーッとしてただけ」 「雪夜、最近ちゃんと寝てるか?顔色悪いぞ?」  佐々木が雪夜を覗き込んできた。  佐々木はやたらと面倒見がいいので仲間内では、おかん的な存在になっている。  多分、雪夜の様子がおかしいことにもとっくに気付いていたはずだが、敢えてそっとしておいてくれたのだろうと思う。 「あ~……うん、大丈夫だよ」  佐々木にごまかしは通用しないとわかっているが、曖昧(あいまい)に笑って視線を逸らした。 「雪ちゃん、腹減りか?コレ食べる?」 「いや、それお前の食べかけじゃねぇか。それより、晩飯どっか食いに行こうぜ」 「賛成!!俺、ハンバーグ食べたい!」 「だから、お前には聞いてねぇよ、バカ」  佐々木が相川の後頭部を軽く叩いた。  幼馴染だというこの二人のやり取りは、雪夜にとってはもう見慣れた光景だ。 「あはは、俺は何でもいいよ」  二人に心配をかけている自覚はある。  全て話してしまえたら、少しは楽になれるのかもしれない。  でも……これは俺の問題だ…… ***  夏樹の部屋を飛び出してから、3回目の週末が来る。  あの日から雪夜の心は埋めようのない寂寥感(せきりょうかん)に襲われていた。  何を食べても味がしない、横になっても眠れない……  あの日着ていた服に残る微かな夏樹の匂いを嗅いでは、只々虚しさと自身への嫌悪感を募らせていた。  夏樹からの連絡は……一度もない。  当たり前だ……  夏樹と一緒にいたいという自分勝手なわがままのせいで、長期間夏樹を騙して縛り続けた。  真相を告げれば、こうなることはわかりきっていたのに……  夏樹さんを散々傷付けておいて、何で俺が被害者ぶってるんだ!?  俺たちの理不尽な恋人関係は終わった――……  もう終わったことなのに、まだ夏樹さんからの連絡を期待している自分が心底気持ち悪い。  気持ち……悪っ――…… 「え、ちょっ……雪ちゃん!?」  急に目の前が暗くなり、雪夜を呼ぶ佐々木と相川の声をやけに遠くに感じていた――…… ***

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