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理不尽な恋が終わる刻 10(雪夜)

――雪夜…… ――夏樹さん……?  夏樹が、いつもの優しい声で雪夜を呼ぶ。  これは夢だ……わかっている……でも夢でもいい……夏樹にもう一度会えるなら…… ――……。  夢の中の夏樹は微笑んでくるっと背を向けると、雪夜を置いて歩き出した。 ――待ってっ! 「なつっ……!」 ――。  必死に伸ばした手を誰かに優しく握られた気がした。 ***  雪夜は喉の渇きを感じて、目を覚ました。 「……み……ず……」  頭がガンガンと痛み、体中が重くてダルイ。 「……っん!?」  上半身を抱き起こされて、柔らかいものが口唇に触れたかと思うと、冷たい液体が口の中に入ってきた。  冷たくて気持ちがいい……  ゴクリと飲み込むと、喉がヒリヒリと痛んで咳き込んだ。 「ゲホゲホッ」 「お……っと、大丈夫?」  誰かの手が背中を撫でてくれた。  だ……れ……?  咳き込みながら重い(まぶた)を開くと、目の前にいるはずのない人がいた。 「ゲホッ……ん……ぁえ?……おれ……まだゆめみてる?」 「一応起きてると思うよ?」  その人がクスッと笑いながら雪夜の隣に座ると、片膝を立てて雪夜の背中を支えてくれた。 「だって……なつきさんが……いるよ?」 「うん、久しぶりだね。……気分は?」 「……え……うれしい……」  夏樹さん……また会えた……夢でもいいや……  ぶはっと夏樹が噴き出し、雪夜から顔を背けると肩を小さく震わせた。  夏樹さんが笑ってる……良かった――…… 「俺も雪夜に会えて嬉しいよ。でも、そうじゃなくて、身体の具合は?」 「……ぐあぃ?」  夏樹が雪夜の耳に何かを当てた。  なんだろう?と思っている間に、ピッという電子音がして外された。 「ん~……38度5分か……雪夜、お薬飲める?」 「おくすり?」  何?俺が飲むの? 「うん、これ飲んでおこうね。よっ……と」  夏樹が身体を捻ってベッドサイドテーブルに手を伸ばした。 「おくすり……やだ……」  雪夜は薬が苦手だ。  子供の頃、薬がうまく飲み込めなくて喉に張り付いてひどい目にあったことがちょっとトラウマになっている。  だから、薬を飲むときはいつも…… 「大丈夫だから、あーんして」  夏樹の笑顔につられて言われるままに口を開けると、味付きの服薬用ゼリーと一緒に薬が入ってきた。  チョコ味だ…… 「よしよし、ちゃんと飲めたな」  夏樹は雪夜の頭を撫でると、またベッドに寝かせようとした。 「やだっ……ねない……」 「寝ないと治らないよ?」 「だって……ねたら……なつきさんがいなくなっちゃう……」  今目を閉じちゃったら……もう夏樹さんに会えない……俺もっといっぱい夏樹さんに言いたいことが……  あれ?っていうか、これ夢の中なのに寝るの? 「……っ……大丈夫、ちゃんと傍にいるから。雪夜が寝るまで手握ってるよ」 「おきても……いる?」 「いるよ……もう放さないから」 「そ……か……なつきさ……だいす……き……」  夏樹が手を握ってくれて、もう片方の手で髪を梳いて寝かしつけてくれた。  あんなに頭が痛かったのに、少し楽になった気がした――…… ***

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