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理不尽な恋が終わる刻 14(雪夜)
「……俺ね、昔は遊んでたっていうか……あんまり恋愛に興味なかったから、さっき言ったみたいに結構乱れた性生活してたんだよね。だから、過去のことはできることなら雪夜には知られたくなかったんだけど――」
『なんで?』
「う~ん……だって、雪夜って俺のこと”理想的な男”みたいに思ってるとこあるでしょ?」
雪夜が頷く。夏樹はカッコいいし、頭も良いし、優しいし――……雪夜的にはパーフェクトな男だと思う。
「あはは……それそれ。そのキラキラした目で見られるとね……結構プレッシャーなんだよね……」
夏樹が自分の目を手で隠した。
え、俺の目?
『おれ……なんか……きにさわることしてた?』
「いや、そうじゃないよ。雪夜がそういう風に見てくれるのは嬉しいし、俺もそれに見合った男になりたいと思う。過去は変えられないけど、未来は自分の努力次第でいくらでも変えられるからね。ただ、雪夜が俺の過去のことや、ああいう一面があることを知ったら軽蔑されちゃうかなって……それが怖かったんだ」
『過去の話はびっくりしたけど、けいべつなんてしませんよ』
「……え?」
『なつきさんにはあこがれてるし、カッコよくて何してもかんぺきでスゴイ人だと思ってますけど、それはおれの勝手なイメージだから、なつきさんがそれに合わせるのは違うでしょ?……それに、あこがれてるからこそ……もっと素が見てみたいっていうか、見せてほしい……』
妄想するのも理想を抱くのもいいけど、それを相手に押し付けるのは何か違うと思う。
それに、自分の理想とその人の素が違うからと言って、その人に幻滅するのはただのわがままだ。
素を知らないということは、結局、その人自身を知らないということ。
お前には本当の自分を見せる価値がないと言われているようなものだ……
俺が夏樹さんに抱いているイメージに、夏樹さんは気付いていた。
そうありたいと思ってくれるのは嬉しいが、今まで素を見せてもらっていないということなんだったら……正直ちょっと辛い……
『誰にだって欠点や弱点はあるし、その欠点をちゃんと直そうと努力してるなつきさんはやっぱりカッコいいです。それに、なつきさんがドSなのはもう知ってますし……だから……』
文字に書くのはもどかしい。
もっとちゃんと言葉にできればいいのに、思っていることの半分も書き出せないし、頭と手が上手に連動してくれない……
というか、俺文章能力低すぎじゃない?難しい漢字わかんないから、ひらがな多いし……
「うん……雪夜、ありがと。でも、素を見せないのは雪夜が信じられないとかじゃなくて、俺が……カッコつけたかっただけだから。それに、俺雪夜にしか見せてない顔も結構あるしな」
必死に文字を連ねる雪夜を夏樹が抱きしめ、肩口に顔を埋めてグリグリと擦り寄ってきた。
夏樹がそんなことをするのは珍しい。
嬉しいが、首に当たる髪がこそばゆい……
「ん……?ちょっと待って、ドSって何!?」
夏樹がガバッと顔をあげた。
『だって、ベッドでいぢわるになるときがある……から……』
「げっ……そうだっけ?雪夜には酷くしないようにかなり抑えてたつもりなんだけどなぁ……」
メモを読んだ夏樹がテーブルに突っ伏した。
『あの……でも……イヤではなかった……ですよ?むしろ――……』
夏樹が落ち込んでいるようだったので慌ててフォローしようとしたのだが、書きながら恥ずかしくなってきた。
だって、こんなこと書いたら……まるで俺……
夏樹に見られる前にと、急いで書いた部分を千切った。
「あ、ちょっと雪夜何してんの!!見せなさい!!」
ヤダヤダ絶対に見せません!!
顔を左右に振って夏樹から逃げる。
だが、立ち上がる前に足を掴まれビタンッと床の上で腹ばいに倒れた。
起き上がる前に夏樹に上からのしかかられて、あっという間に身動きが取れなくなる。
ぅぅ……体格差っ!!重っ……!!
雪夜がもがいている間に、夏樹にあっさりとメモを奪われていた。
「ぁっ!」
「はい、回収!何書いた……の……」
「……?」
夏樹が急に静かになった。
読んだ……よね?何で夏樹さん固まって……
「雪夜……これは……雪夜が悪い」
「……ぇ?」
***
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