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理不尽な恋が終わる刻 17(雪夜)
「それはそうと……」
「ふぇ?」
一人で百面相をしている雪夜を、夏樹がよいしょと膝の上に抱き上げた。
「え、あの……夏樹さん?」
「この方が顔がよく見えるから」
「でも……俺……」
さっきは顔が見える方がいいとか思ったけど、いざ顔が見えると……いや、この体勢になると……ちょっと照れるんですけど……
「雪夜」
「はいぃっ!」
緊張して思わず膝の上で固まる。
次は何ですか!?
「っはは……ちょっと落ち着いて。話の続きをしたいだけだから」
夏樹が雪夜の頭をポンポンと撫でた。
あれ、なんかこれデジャヴ……
「……ぁ……はい」
「どこまで話したんだっけ……え~と……俺が雪夜に恋愛感情を抱いてるのはわかってくれた?」
「はい……」
「それで……雪夜の返事……聞かせて?」
「っあの……え……でも……」
優しいけど真剣な眼差しに、戸惑う。嬉しい。めちゃくちゃ嬉しいよ!?……けど……
「夏樹さんあの時……そうだねって……」
「あの時?」
「俺が……もう付き合う理由がなくなったって言ったら……そうだねってっ……言った……!」
そう……事の真相を告げて、別れ話になった時、夏樹も「そうだね、わかった」って納得してたっ!!
だから俺は……
「あぁ~あれか……あれはつまり……『俺が襲った』ことが前提の恋人関係だったんだから、その責任云々の付き合う理由はなくなったよなっていう意味での『そうだね』だよ」
「へ?」
「俺はもう雪夜のことを好きになってたから、あの時だって別れるっていうことは全然頭になかったんだけど……でも雪夜が別れるって言い出したから、そのまま続けるよりも一度関係をリセットして、一からやり直した方がいいかもしれないと思って……そう言おうとしたらもう雪夜はいなくなってた。すぐに追いかけたかったけど、まさか別れ話になるなんて思ってなかったから……その……ショックで動けなくて……だから……追いかけられなかった……」
「え、ショックって……夏樹さんが?」
「あのね、俺だって本気で好きになった子に捨てられたらさすがにショック受けるんだよ……」
夏樹が少し拗ねたように自分の髪をワシャワシャとかき乱した。
「捨てっ!?え、俺がですか!?」
いや、何で俺が夏樹さんを捨てるの!?
「……雪夜に会えない間、俺も眠れなくてボロボロだったんだよ……ずっと雪夜のことばっかり考えてた。会いたいけど、会いに行って、捕まえて、それからどうしようって……」
いつも自信満々に見える夏樹さんが?俺のことばかり考えてた?
「じゃあ……俺が一人で早合点して、勝手に振られたと思い込んでただけ?」
「俺は雪夜を振った覚えはないよ」
言われてみれば、はっきりと別れると言われたわけではない……
「だから、改めて、ちゃんと俺と付き合って」
夏樹が雪夜の手を両手で包み込んだ。
「俺……夏樹さん……」
「ぅん?」
「あの……好きになってもいいの?」
俺、男だけど……
「むしろ、好きになって欲しいな」
好きになってもいいんだ……
この半年間、会う度に想いは募って、好きだと自覚してからは、真実を話すのが怖くて、でもそんな状態じゃ好きになる資格なんてなくて……それでも好きな気持ちを止めることなんてできなくて……
「俺……あの……夏樹さんが……好き……ですっ……俺もホントは……とっくに……」
「……ほんとに?」
「……はい」
「そっか……じゃあ俺たち結局、両想いだったんだ……」
夏樹が、握っていた雪夜の手の甲に口付けをして、雪夜を抱きしめた。
ちょっ……夏樹さんっ!?今の顔は……反則っ!!!
夏樹の無防備なはにかんだ笑顔に胸がときめいた……顔が熱い……
両想い……夏樹さんと俺が……?夢みたいだ……
いろいろありすぎて頭がクラクラしてきた。
え~と……だから……とりあえず……俺たちは両想いで、ちゃんと恋人になれた……ってこと?
ホッとしたら急に身体が重くなってきて、力が抜けた。
「雪夜?どうしたの、大丈夫?」
「あ……ごめ……なんかちょっと……ダルくて……」
このまま寝ちゃダメだ……下りなきゃ……
「あぁ……ちょっと寝る?」
「ん……おりま……しゅ……」
起き上がろうとしたが、夏樹の腕にホールドされていて動けなかった。
「このままでいいよ」
夏樹がクスッと笑う。
下りなくて……いいの?
起こしていた頭をポスンと夏樹の胸に預けた。
もたれかかる雪夜の髪を夏樹が優しく梳いてくれる。
大好きな夏樹さんの匂いだ……嬉しいな……
夏樹の温もりに安心した途端、猛烈な眠気に襲われ、目を開けていられなくなった……
***
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