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理不尽な恋が終わる刻 18(夏樹)

「……雪夜?」  夏樹にもたれかかる雪夜から規則的な寝息が聞こえる。 「寝ちゃったか」  ……やっぱり、さっき抜いたのが原因だろうな……病み上がりだからエロいことは我慢しようと思ってたのに、雪夜が煽るから……いや、だってあの煽り方はダメだろ…… ***  あの日――  相川におんぶされている雪夜を見て、何かあったのかと心配するよりも嫉妬の方が先にきた。  普段の夏樹なら、もっと冷静な対応をしていたはずだが、あの瞬間は頭に血が上って感情のままに相川と怒鳴りあいをしてしまった。  一緒にいた佐々木が今回も仲裁に入ってくれて、何とか治まったが……  あ~……我ながら大人げない……  その時、夏樹の携帯が鳴った。  浮かび上がる名前に、慌てて通話ボタンを押す。 「はい、佐々木君?」 「どうも。雪夜の具合はどうですか?」 「うん、さっき起きてお粥食べたよ。熱もちょっと下がった。今はまた寝てるよ」 「そうですか、それは良かったです。それで……大丈夫でしたか?」 「あぁ……うん、おかげさまで」 「そうですか。それならいいですけど……」 「あ、そうだ、念のため明日もバイト――」 「もうバイト先には休むって言ってあるんで大丈夫ですよ」 「ありがとう。月曜には治ってると思うけど……また連絡するよ」 「はい、雪夜のことよろしくお願いします」 「うん、それじゃ――」  ……定期連絡の時間過ぎてたのか……  雪夜を引き渡してもらうにあたって、佐々木からいくつか条件が出た。 一、 雪夜を必ず病院に連れて行くこと 一、 朝夕8時から9時の間に、雪夜の体調を知らせて来ること 一、 雪夜の面倒をしっかり見ること 一、 雪夜に薬を飲ませること(必ず服薬ゼリーを使うこと) 一、 佐々木からの電話、メールは無視しないこと 一、 もし夏樹といることを雪夜がイヤがったら、速やかに佐々木に連絡し、引き渡すこと 一、 雪夜を絶対に泣かせないこと(泣かせたら海に沈められると思え)  あいつもわりといい性格してるよなぁ……  一番最後のを笑顔で言い放つあたり、俺と同類の匂いがする――……    佐々木から雪夜が夏樹と別れた頃から食欲が落ちて眠れていないようだと聞いた時は、正直驚いた。  付き合う理由がなくなったから別れると言ったのは雪夜の方だ。  雪夜を連れて帰ってくる間も、もし目が覚めて拒絶されたらどうしようかと、そればかりを考えていた……  まぁ、その心配はすぐに消えたけどね……  熱でうなされている雪夜は「夏樹さん」「好き」「ごめんなさい」を繰り返していた。  それに……あんなの聞いちゃったら……  そのくせ、起きてるときにはなかなか素直に言ってくれないんだよな……   「ぅ……ん」   胸元で雪夜がもぞもぞと動いた。 「……っと……」  雪夜の頭にキスをして、背中を優しく撫で眠るようにあやす。  雪夜の重みと体温が心地良い。  ベッドに寝かせてやった方がいいとは思うが、この温もりをもう少し感じていたい。  もうちょっとだけ……  ……俺はたぶん……いや、かなり執着心が強いのだと思う。  できることならば雪夜をこのまま……  でも……今はまだ……傍にいられるならそれでいい。  俺の腕の中に雪夜がいる。  それだけで十分だ。  夏樹は安心しきった顔で眠る雪夜の寝息を聞きながら、幸せを噛みしめていた――…… ***

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