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どんなに暗い夜だって… 1-3(雪夜)

「それで、これから雪ちゃんどうすんの?部屋ぐっちゃぐちゃなんでしょ?」  痴情のもつれというやつは怖いもので、その女性は室内をひっくり返して家具を破壊するだけでなく、ご丁寧に赤ペンキやら生ごみやらをまき散らしてくれていた。  つまり……雪夜の部屋は現在、なかなかの惨状になっている。 「うち来るか?相川の家よりはまだ広いし」  佐々木も相川も一人暮らしだが、佐々木の家の方が少しだけ広いので、みんなの溜まり場になっている。 「ん~……とりあえずちょっと部屋片付けて、無事な物とか、必要な物は探し出さないと……まぁ、もともと必要なものはそんなに置いてないから、それはすぐにできると思う……その他の片付けは、管理人さんが自分の責任だからってタダで業者の手配とかしてくれるみたい。だから、次の部屋が見つかるまでその……荷物だけちょっと預かっててもらってもいい?」 「部屋片付けんの手伝うぞ?っていうか、荷物だけって雪ちゃんはどうすんの?」 「俺はネカフェででも……」 「あ~……相川、ちょっと飲み物買ってきて」 「え?なんで今!?」 「ほら、雪夜大変だったから、喉渇いてそうだろ?雪夜のために、な?」 「……あぁ、わかった!いつものやつでいい?」 「うん」  佐々木が急に相川を遠ざけた。  相川は雪夜のことがお気に入りなので『雪夜のため』という言葉に弱い。  相川が離れたのを確認してから、佐々木が少し声を落とした。 「なぁ、もちろんこのこと、あの人は知ってるんだよな?」 「あの人?」 「夏樹さんだよ。あの人のところには泊めてもらえないのか?」  佐々木は、いろいろあって夏樹と雪夜の関係を知っている。  雪夜がゲイだと知ってからも以前と変わらず接してくれている大切な友人だ。  相川は……なぜか奇跡的に気づいていない。 「夏樹さんには話してないし、話すつもりもない……こんなことで迷惑かけたくない……それに俺、夜は――……」 「もしかして、あのこと夏樹さんに話してないのか?」 「……うん……」  夏樹に話せば、きっと泊まれと言ってくれるはずだ。だが…… 「あの人なら大丈夫だと思うけどなぁ……あれ、でも熱でぶっ倒れた時はあの人の家に泊まってたんだろ?」 「あれは不可抗力というか……夏樹さんの家にいる間は俺意識ほとんどなかったし……」 「そうか……う~ん……わかった、とりあえず、今から俺の家で寝ろ。昼間だから大丈夫だろ?」 「え、俺ここで寝るからいいよ」 「んな座ったままだと疲れ取れないだろ?ちゃんとベッドで横になれ。いいな?」 「……はい、ママ」 「よし」  疲れ切っていたので、正直ベッドで眠れるのは有難い。  それに、佐々木は心配してくれているのだから、ここは素直に言うことを聞くに限る。 ***

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