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どんなに暗い夜だって… 1-4(雪夜)
「雪夜、ホントにネカフェ行くのか?」
「うん、着替え貸してくれてありがとね。昼間ぐっすり寝たから、全然余裕。また明日!」
「雪ちゃん、何かあったらすぐに連絡して来いよ~!?何時でもいいからね!!」
「わかった、ありがとう」
雪夜は相川と佐々木と別れると、駅前のネカフェ目指して歩き出した。
ぐっすり寝たというのは嘘だ。
めちゃくちゃ疲れているはずなのに、横になっても眠れなかった……
無理やり目を閉じると、数時間前のあの出来事が頭の中でフラッシュバックしてしまうのだ。
明日は部屋の片づけに行かなきゃ……
あの部屋に入ることを考えると気が重い。
それにしても、夏樹さん……今日はお昼にメールがなかった……忙しかったのかな……
今回のことを夏樹さんに話すつもりはない。
でも、夏樹さんに会いたい……いつものように抱きしめてほしい……そうしたら、悪夢を見ずに眠れそうな気がする――……
な~んて……金曜じゃないし無理だよね……後2日がまんがまん!
その時、夏樹からメールが入った。
『今何してるの?』
夏樹からのメールに顔が綻んだが、ふと我に返る。
あ……なんて言おう……ネカフェに向かってるなんて言ったら、いろいろ話さなきゃだし――……
『相川達とご飯食べてます』
嘘……ついちゃった……でも、さっきまで食べてたから、完全な嘘ではないよね!?
『そうなんだ。俺もさっき食べたところ』
『あの…今日の昼は忙しかったんですか?』と打ちかけて、思い直して文字を消した。
別に、昼に連絡がないことは今までだってあったし……ちょっと連絡がなかっただけでこんなこと聞くとか……俺うざい……
歩道の端に寄り、建物の壁に背中をつけて座り込む。
声だけでも……聞きたいな……今、通話できるかな――……
『あの……今から通話お願いできますか?』
『いいよ、こっちからかけようか?』
夏樹の返信がやけに早くてちょっと驚く。
いや、待て!今から!?……何言ってんだ俺、今は相川達といるって言ったばかりなのに……
『すみません、間違えました!今夜です!』
『何かあったの?』
夏樹からのメールに思わず指が止まった。
何か……ありまくりですよ――……
「ぁ~……夏樹さんに会いたい……」
携帯を持った手を額にあてて呟いた。
目を瞑ったまま次の返事をどう打とうかと考え込んでいると、目の前に誰かが立つ気配がした。
「みーつけた」
今一番聞きたいと思っていた声に驚いて顔を上げると、壁に片手をついて覆いかぶさるように雪夜を見下ろす夏樹の顔があった。
「な……つきさん……え、何でっ!?」
今……メールしてたよね!?
「今呼んだでしょ?」
「呼んだって……っぁ」
夏樹がここにいるのが信じられなくて食い入るように見ていると、夏樹の顔が近付いてきて口唇が触れていた。
「んっ、なつ……待っ……っ」
いくら端に寄っているとは言え、人の往来がある中で……と思うのに、無意識に手は夏樹の首に回っていた。
口唇が離れた時にはもう頭が蕩けていたので、もっとして欲しいと目でねだってしまい、夏樹に名前を呼ばれてようやく我に返った。
俺こんなとこで何をっ!?
急いで夏樹の首に回していた手を離す。
「あぁ、雪夜ちょっと待って」
夏樹は、慌てて立ち上がろうとする雪夜の口に人差し指を当てて、電話をかけ始めた。
「あぁ、雪夜無事回収したから。うん、ありがとう。それじゃまた」
え、俺を回収?どういうこと?
「お待たせ。じゃあ、行こうか」
「ふぇ、行くって?」
「俺の家。荷物それだけ?」
「え、ちょ、あの……夏樹さん、これ一体どういう……」
「どういうこと?それは俺のセリフだと思うけど?」
夏樹がにっこり笑う。
こういう顔の時は……機嫌が悪い時だ。
あ……もしかして……
「……さっきの電話、佐々木ですか?」
「そうだよ。雪夜がネカフェに行くって聞かないから、途中で回収してくれって連絡が来たんだ」
「佐々木ぃいいいい!!!夏樹さんには知らせないでって言ったのにっ!!」
あ、ヤバいっ!思わず声に出して言っちゃった……急いで口に手を当てたが遅かった。
「それ、聞き捨てならないなぁ~……まぁ、いいや。話は家で聞くから、とりあえず行くよ」
夏樹が雪夜の荷物を肩にかけると、空いた手を雪夜の腰に回して抱き寄せた。
「ななな夏樹さん!?あの……手が……」
「雪夜が逃げないようにね。騒ぐと余計に注目集めちゃうよ?」
「そうは言っても……」
騒がなくても目立つでしょ!?せめて手を繋ぐくらいで……いや、それも目立つけどっ!
「気になるならこれ被っとけばいいよ」
夏樹は、周りの目を気にする雪夜にパーカーのフードをボスっと被せた。
***
顔が隠れたせいでちょっと気がラクになった。
夏樹の足取りからイラついているのがわかるが、それでも雪夜に添える手は優しかった。
夏樹さん仕事帰りに探しに来てくれたのか……
申し訳ない気持ちになったが、その一方で夏樹に会えてホッとしている自分もいた。
***
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