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どんなに暗い夜だって… 1-8(雪夜)

「実は俺……暗闇が……その……怖くて……明かりがついてないと寝れないんです……」 「……え、あぁ……そうなんだ?」 「だから友達の家にも泊まれなくて……佐々木と相川はアイマスクつけるから大丈夫って言ってくれて飲み会の時とか何回か泊めてもらったんですけど、やっぱり電気代もかかるし、家主にそんなことさせてまで泊めてもらうのも申し訳なくて……」 「じゃあ、今までここに泊まらなかった理由もそれ?」 「……騙してた云々(うんぬん)以外の理由は、それです」 「……」  夏樹が静かになった。  約束通り笑ってはいないけど……やっぱり変な理由だよね…… 「あのさ、雪夜」 「はい!」 「その暗闇が怖いのって、何か原因があるよね?」  呆れて笑われると思っていたのに、夏樹は予想外に真剣に受け止めてくれた。  原因まで聞かれると思っていなかったので、少し戸惑う。 「ぁ~……えっと……子どもの頃のトラウマみたいなもので……」 「話せる?嫌だったらいいけど……」 「嫌ではないですよ、えっと、確か3歳くらいだったと思うんですけど……」 ***  子どもの頃、家族で山にキャンプに行った。  好奇心旺盛だった雪夜は家族から離れて一人でフラフラと……たぶん虫でも追いかけて行ったのだと思う。  幼児の足だから、そんなに遠くに行けないはずだが、家族が気づいた時にはもう周辺には見当たらなかった。  ――雪夜が見つかったのはそれから2日後。  足を怪我して動けず、雨の中、大きな木の根元で丸くなっていたらしい。  2日間のことはほとんど覚えていないが、運悪く1日目は新月で2日目は雨だったので、夜になると真っ暗になり、雨の音、動物の声、木々のざわめきが暗闇から聞こえてきて、幼心に恐怖を感じたのだけは覚えている。  それから、暗闇では眠れなくなった。 *** 「……ただ、それだけのことなんです……そんな子供の頃の話を未だに引きずってるなんて……情けないんですけどね……」 「情けなくなんかないよ」  自嘲気味に笑う雪夜の頬を夏樹が両手で挟み込んだ。 「雪夜、何年前の話だろうが、どんな些細なことだろうが、トラウマっていうのは本人にとってはすごく大変な傷なんだよ。でも心の傷は他人には見えないから、話してくれないとわからない。だから……話してくれてありがとね。思い出すの辛かったでしょ?」  ――それくらいのことで……?  ――子どもの頃の話でしょ?……  ――もう大きいのに暗いのが怖いなんて変なの~……  みんながそう言って笑うから……修学旅行も恥ずかしくて行けなかったし、友達の家で泊まることもできなかった……  だから、夏樹さんにもなかなか言えなくて……  でも……そうだ、夏樹さんはこういう人だった。  俺が好きになった人は――……  なんでもっと早く言わなかったんだろう。  そしたら、今回のことでも変な意地を張らずに済んだのに……  夏樹の言葉に胸がいっぱいになって、嬉しくてまた泣きそうになった――…… 「……あれ、でも風邪引いた時はここで寝たけど大丈夫だったの?あの時俺、知らなかったから電気消しちゃってたけど」 「あ、あの時は……熱でほとんど意識が朦朧としてたし、ずっと寝てたから……朝とか夜とかもうわかんない状態だったし……」 「……なるほど。じゃあ、一旦眠り込んだら暗闇になっても大丈夫ってことかな……」 「え?」 「うん、わかった。それなら、電気つけたまま眠ればいいよ。俺は明るくても暗くても眠れるから。雪夜が眠りやすいようにすればいい」 「え、でも……」 「あ、その代わりに――」 *** 「雪夜、お風呂……って、眠たいならちゃんとベッド行きなさい。風邪引くよ」 「……ん~」  夏樹は電気を消さなくてもいいと言ってくれた。  同棲するかどうかはまだ決めかねているが、夏樹に言われるままとりあえず数日間だけでも泊まってみることで合意した。  夏樹がお風呂に入っている間、明日からの部屋の片づけやこれからの出費について考えていたのだが、いつの間にかうたた寝をしていたらしい。 「寝てません……」 「いや、どう見ても寝てたけど……仕方ないなぁ」  夏樹がお姫様抱っこでベッドに連れて行ってくれた。  普段なら恥ずかしくてすぐに離れるのに、このまま抱きついていたいと思うのはやはり眠たいのかもしれない……なんだか頭がフワフワする――…… ***

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