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どんなに暗い夜だって… 1-10(夏樹)

 ……このまま朝まで眠れたらいいんだけど……  夏樹は小さく息を吐きだし雪夜の頬に口付けると、首に絡んでいた腕を外して、起き上がった。  ……ん?  手を拭きながらふと目の端に何かがひっかかり雪夜を見る。  その時初めて、雪夜の首に痣ができていることに気付いた。  その痣を見た瞬間、身体中から一気に血の気が引いて、それからふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。  胸元をはだけると、雪夜の首には、手指の痕がくっきりと入っていた。  絞め痕などの圧迫痕は、時間が経ってから出て来ることが多い。  佐々木の話では相手は女だったというが、薬物中毒の上、半狂乱だったというので恐らくかなりの力だったのだろう……  雪夜の首にそっと触れる。  白い肌に……食い込んだ指の痕が痛々しい……  こんなになるほどだったのに……くだらない話だなんて……言うなよ……っ  やるせない思いに、胸が締め付けられた。   ***  昼、雪夜が寝てる間に、相川と二人でこっそり雪夜の部屋に行ってきたんですけど、想像以上に見るも無残な状態でしたよ……  服とかはほとんど意図的にペンキぶっかけられて切り刻まれてたから、もう着れるものはなかったです。  家具や家電、PCもぶっ壊されてたし……  夏樹さん、雪夜は暗闇にトラウマがあって夜あんまり眠れないんですよ。  今回のことでそれが酷くなるかもしれない……  雪夜は他人に頼ろうとしないけど、あなたになら――……   ***  佐々木の言葉を思い出す。  今日雪夜が持っていた荷物は、かなり軽かった。  服も佐々木に借りたと言っていた……  明日、いろいろ買いに行かなきゃな……  ぼんやりと考えながら、やり場のない怒りに爪が食い込むほど拳を握りしめた……  運が悪かったと言えばそれまでだが、そもそもの元凶を引き起こした隣人、同情の余地はあるものの、雪夜にあんな痕を残した女、身内かどうかの確認を怠った挙句に部屋を間違えて鍵を渡した無能な管理人……それから……雪夜の大変な時に傍にいてやれなかった自分自身……それら全てに腹わたが煮えくり返る……くそっ!!  ベッドに拳を振り下ろしかけたが、雪夜がいることを思い出して手を止めた。  はぁ……何やってんだ俺……シャワーでも浴びて頭を冷やそう……  そっとベッドから出ようとすると、服が引っ張られた。 「ん?」  見ると、雪夜がいつの間にか夏樹の服を握っていた。 「なつ……さ……ん」  寝言?  夏樹の名前を呼ぶ雪夜の目尻から涙が流れた。  夏樹は、声を殺して唸ると、前髪をガシガシとかき乱した。  一つ大きく息を吐いて、それからまた横になる。 「うん、ここにいるよ……ここにいる……」  耳元で囁いて雪夜を精一杯優しく抱きしめた。   ***  一方、雪夜はというと、夏樹が今回のことでそんなに心を痛めているとは露知らず、夏樹の温もりに包まれて完全に気が緩んだおかげで翌日の昼まで爆睡したのだった――…… ***

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