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どんなに暗い夜だって… 2-4(雪夜)
「同棲生活は順調?」
必死に書き写す雪夜に、佐々木が爆弾を落とした。
今それ聞くか~……
「……順調に見える?」
手を止めて、上目遣いで佐々木を見る。
「順調じゃないのか?夏樹さん雪夜のこと溺愛してるだろ?」
「溺愛っ!?あ~いや、うん……そうなのかなぁ……わかんない」
「何が問題なんだ?」
「問題なのは……俺……」
愛されているのだと……思う。
そうじゃなきゃ、仕事を長期間休んでまで俺の面倒をみてくれたりしないよね……
「俺ね……最近……夏樹さんと一緒にいると……なんていうか無性にムラムラするっていうか……抱いて欲しく……なる……」
抱きしめてくれたり、軽いキスをしてくれたりはあるんだけど……っていうか、スキンシップ自体はたぶん前よりも多いはずなのに……それだけじゃ物足りないと思ってしまう……
「は?っていうか、お前らってまだヤってなかったのかっ!?」
「ちょっ、佐々木落ち着いて!!声っデカいって!!」
自習と称して大学の空き教室を借りているのだが、さすがに大声だと廊下を通る学生に聞こえてしまう。
「あ、悪ぃ。いや、だってもう半年以上経つだろ!?」
「あ~、だからその……同棲する前は抱いてくれてたんだけど……でも同棲を始めてから俺が倒れたりしたから……それどころじゃなかったっていうか……」
「まぁそれは、あるかもだけど……でも、もう身体の方は大丈夫なんだろ?」
「あ、うん。痣も消えたし、傷も……」
「だったら、後はさっさと抱いて心の傷も癒してやるべきだろぉお!?何やってんだあの人はっ!!」
「いやいや、休んでる間、俺あり得ないくらい夏樹さんに甘えまくってたらしいから……心の傷も十分癒して貰ってるんだよっ!?……ただ……前はそんなことなかったのに、なんか一日中一緒にいるからか、やたらとそういう……欲求が――」
「ぁ~……そうかぁ~……俺はようやくお前らが同棲始めたっていうから、惚気 話でも聞いてやろうかと……まさかの禁欲生活とか、何のための同棲だよっ!!」
「あはは……何のためって……でも、俺の看病をするための同棲でもないよな――……」
「雪夜?」
「なんかホント……俺なんのために夏樹さんと同棲してんだろ……迷惑しかかけてない……夏樹さんは仕事休んでまで傍にいてくれたのに……俺、自分が正気に戻った途端、抱いてくれないのを不満に思うとか……あまりに自分勝手すぎるよね……でも一緒にいたらもっと触って欲しいとか思っちゃって……何考えてんだろ……俺って変態なのかな……どうしよう、このままじゃ嫌われちゃう……夏樹さんだけじゃなくて、佐々木や相川にも――……」
あ~情緒不安定……こんなこと考えてる時点で俺超ウザいやつだ……
「……よしよし、泣くな泣くな。俺らも夏樹さんも、お前を嫌いになったりしないから、そんな心配しなくていいんだよ。だいたい、好きなやつに触りたい、触って欲しいっていうのは健全な感情だろ。俺らお年頃なんだし、性欲強くて当たり前だし。まぁ……夏樹さんのことだから、大方 はお前を大事にしすぎて手を出すタイミングを失ったとかだろ」
佐々木が雪夜の頭をポンポンと撫でて、服の裾で涙を拭ってくれた。
こういうことをサラッとしてしまうところが、夏樹さんと似てるんだよな……
「ぅん、なんかごめん……佐々木ぃ~大好きぃ~」
「ちょっとっ!!聞き捨てならないよっ!?雪ちゃん俺はっ!?」
「ぅお!?相川お前いつからそこにいたんだよ!!?」
「今だよっ!!アイス買ってきたっ!!」
「相川も大好きぃ~」
「やった~!俺も雪ちゃん大好きぃ~!」
いつからいたのか、すごいタイミングで入ってきた相川が、便乗して雪夜に抱きついてきた。
「はいはい、相川離れなさい。あんまり引っ付いてると夏樹さんに吊るされるぞ」
「なんだよぅ、あ、妬いてる?心配しなくても、翠 も大好きだぞ!」
「……っ……お前ってやつは……人の気も知らないで……」
「ん?何か言った?あれ、翠、顔赤――……」
「なんでもねぇよ!下の名前で呼ぶなっつってんだろ、このバカっ!」
佐々木が、相川の顔面を手のひらで叩いた。
「あ痛 っ!ひどいなぁ、せっかくお前のためにコーヒー買ってきたのに~」
「お前これ、コーヒー牛乳じゃねぇかっ!」
……佐々木と相川は、雪夜がなぜ休んでいたのかを知っている。
でも、そのことについて深く聞いてきたり、腫れ物扱いをしたりしない。
全てを知っていて、心配もしてくれているが、それを表には出さない。
雪夜にとって、こうやって二人が普段通りに接してくれるのがありがたい――……
***
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