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どんなに暗い夜だって… 2-5(夏樹)
「ん?…………ぶふぉっ!!」
「ぇええ!?なんだよ夏樹!?」
仕事の休憩中にメールを見て、思わず飲みかけのコーヒーを噴き出した。
「げほっ……悪い……かからなかった?」
「おれは大丈夫だけど……気管にでも入ったか?」
「あ~、うん……ちょっと気管に入っ……ゲホゲホッ……トイレ行ってくる」
同僚から逃げるようにトイレに駆け込んだ。
くっそ……何なんだよ佐々木の奴!!!
もう一度メールを読み返す。
『同棲してから雪夜とヤってないってホントですか?おかげで雪夜が不安になってますよ。俺、泣かせるなって言いましたよね?抱く気がないなら、俺の家で引き取りますよ!』
はぁ!?引き取るってなんだよっ!?誰が抱く気がないだって!?こいつっっ――!!!
急いで佐々木に電話をかける。
――Prrrr
おいこらっ、佐々木出ろよっ!!
「只今、電話に出ら――……」
留・守・電んんんんっっっ!!!!
思わず携帯をトイレに投げそうになった。
大きく息を吸い込んで、気を落ち着かせる。
はぁ……勝手なこと言ってんなよ……俺がどれだけ――……っ!
だいたい、あんな状態で手出せるわけが――……っ!
……あれ?っていうか、これ、雪夜が泣いてるってことか?
今度は雪夜にかけてみた。
「はいっ!」
「あ、雪夜?大丈夫?」
「え、あ、はい。大丈夫ですよ?」
……あ~……ちょっと鼻声だ……
「あ、やっぱり仕事長引きそうですか?大丈夫ですよ、俺もまだいっぱい書き写すプリントがあるんで――……」
――雪ちゃ~ん、佐々木がいぢめるぅ~!
――わ、ちょっと待って相川!今電話中だから離れてっ!!
――いいじゃんか、さっき俺のこと大好きって言ったくせに~!
――言ったけどっ、今は邪魔ぁっ!佐々木ぃ~助けてぇ~!
――こら、相川!いい加減にしろ、抱きつくなっつってんだろっ!
雪夜の周りで相川と佐々木がわちゃわちゃしているのがわかる。
傍にいてやってくれと頼んだのは俺だけど……近すぎじゃないか?おい……なんだよ大好きって……
握る手に力が入り過ぎて携帯がメキメキと音を立てた。
「っはぁはぁ……夏樹さんすみません……周りがうるさくてっ――……」
「あ、うん。俺今日、早仕舞いして迎えに行くから」
「え、今日遅くなるって言ってませんでした?」
「秒で終わらせる。絶対終わらせる」
「えと……でも無理しないでくださいね?」
「大丈夫、ソッコーで終わらせる。んで、相川一発殴らせろって言っといて。それじゃ、後でね。」
「は……い?……わかりました言っておきます……?」
***
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