55 / 715
どんなに暗い夜だって… 2-10(雪夜)※
「ん~……いつものかぁ……っ……わかった、ちょっと待ってねっ」
「ぁっっ!!」
夏樹が少し思案した後、一瞬深く突き上げて、繋がったままクルリと体勢を変えた。
背中に当たる柔らかい布団の感触に安心する。
「……雪夜、大丈夫?」
いつものポジションにホッとしていると夏樹が心配そうに雪夜を覗き込んだ。
「……ぇ?」
「怖くなったら言ってね、すぐに止めるから」
怖くなったら?何に?
こころもち緊張した顔で夏樹が上半身を起こす。
夏樹の顔がうっすらと陰になった瞬間、言葉の意味がわかった。
あぁ、そうか……夏樹さんが俺に手を出さなかったのも……騎乗位でとか言い出したのも……
この体勢は……あの時と同じなんだ……
急に鼓動が早くなって、キーンと耳鳴りがした。
息が苦しい……身体が勝手に震えだす……怖いっ……苦しいっ……痛いっ……あの時の感情が一気に押し寄せる。
「雪夜、落ち着いて。大丈夫だから……大丈夫……」
パニックになりかけた雪夜を夏樹がぎゅっと抱きしめた。
「……やっぱり止めておこうか、まだ早かったねごめん……」
後悔を滲 ませた顔で微笑むと、夏樹が雪夜からそっと離れた。
雪夜は胎内 から熱が抜けていくその感触で我に返った。
「夏樹さんっ……やだ、止めないでっ!!」
言い知れぬ寂寥感 から、咄嗟に夏樹に震える手を伸ばす。
「……雪夜?無理しなくていいんだよ」
夏樹が優しく微笑んで雪夜の手を握った。
あぁ……俺……夏樹さんに……
「無理じゃないっ!!夏樹さんに……抱かれたいのっ……こうやって見上げるのは……夏樹さんがいい……あんな記憶いらないっ!!あんなの忘れるくらい夏樹さんでいっぱいにしてよ!!」
髪を振り乱して首を絞めてくる女の幻影なんか……もう見たくない……っ
雪夜は泣きながら必死に叫んでいた。
後で考えたら結構大胆なことを言ったと思うが、この時はたぶん……まだ軽くパニックになっていたのだと思う……とにかく、夏樹にめちゃくちゃに抱かれたかった――……
***
夏樹が、片眉を少し上げるとフッと小さく息を吐いた。
そして……鋭く目を細めて前髪をかき上げた。
あ……スイッチが入った……
未だに、夏樹さんの本気スイッチがどこにあるのかわからない。
ただ、高確率で、前髪をかき上げた後は……エロ度が増す……と思う……
ほら、夏樹さんの纏う空気が変わった。
ゆっくりと開かれた瞳が、鈍く光っている。
雪夜にねっとりと絡みついてくる視線が……艶めかしく笑って口唇を舐める舌が……獲物を狙う雄のそれになっている。
まだ身体の震えは止まらないのに、頭の片隅では夏樹さんがその気になってくれたのが嬉しくて、ちょっと期待してしまっている自分がいた……やっぱり俺って変?
「……っわかった。全部上書きしてあげる。他のことなんて考えられなくなるくらい俺でいっぱいにしてあげるね」
そういうと、雪夜の涙を舐めとって、顎から耳の縁まで口唇を這わせた。
「……んっ……」
「雪夜、俺のことだけ考えてて」
夏樹が低く甘い声で囁くと、耳たぶを甘噛みしながらゆっくりと昂ぶりを雪夜の胎内に戻してきた。
待って、さっきよりも……大きいっ!?
抜いたばかりなので十分解れているはずなのに、キツイ……じわじわと押し広げられていく感覚に息が詰まって気が遠くなりそうになる。
先端が挿入ったところで、夏樹が少しずつ動き始めた。
入口に夏樹の突起が引っかかる。
抜けそうで抜けないギリギリのところで抜き差しを繰り返すその動作にもどかしさと快感を感じ始めた時、夏樹が一気に押し進んできた。
「ぁんっ……っは、あ……っんん゛!!」
……粘膜が擦られ肌が合わさる音が響く中、夏樹が動く度に感じる圧迫感と、夏樹の熱さに目の奥がチカチカと瞬いた。
声が漏れそうになったので歯を食いしばり、ぎゅっと眉根を寄せて目を閉じた。
「っ……こぉら、雪夜、目閉じちゃダメ。ちゃんと俺を見て」
「……っぁ、ん……っん」
夏樹に促されて目を開ける。
コツンと額を合わせてきた夏樹が、軽くキスをしてフッと笑った。
その笑みが凄絶に色っぽい……
「声、我慢しなくていいよ。聞きたい」
「やっ……でもっ……っ」
俺の喘ぎ声なんか……萎えちゃうでしょ……
「だめ?」
夏樹が、雪夜の口に指をねじ込み、キスをするときのように舌を指で弄んだ。
「ぁがっ……っん゛……っんん゛」
「雪夜の声……好きなんだけどな……聞かせてよ」
指を奥の方に入れられて嗚咽しそうになるほどの息苦しさに勝手に瞳が潤んだ。
舌の付け根を掴まれ、口腔内に唾液が溢れる。
気持ち悪いはずなのに、そうやって舌で触られるのと同じように上顎や歯茎を擦られるとだんだんと頭の奥が痺れてきて……飲み込み切れない唾液が口の端から零れた。
雪夜が蕩けてきたのを見て、夏樹が指を抜いた。
「ぷはっ……ぁあっ、あんっ……やっ、やらっ……激しっ……んんっ」
指を抜くと同時に夏樹が強く突き刺して来た。
指で弄られていたせいで口腔内が快感に痺れ力が入らず、気が付いたら嬌声をあげていた。
「……ん、善 い声……もっと啼 いて」
夏樹が雪夜の膝裏に手を当ててお腹に太ももが当たるくらい持ち上げた。
そのまま覆い被さられると体勢的には苦しいのだけれども、確実に夏樹さんがあの場所を刺激してくれるのを知っているので、苦しさよりも悦びの方が勝って期待感に下腹が熱くなる。
圧迫感と共に押し進んできた夏樹にグリッとそこを擦られると、全身を電気が走ったような快感が押し寄せ、身体が跳ねた。
「ん、ふぁっ……なつっ……そこっやらっ……らめっ……ああ゛っ」
気持ちがいいのに、久々の快感に思わず拒絶する言葉が口を吐いた。
「うん、イイとこに当たってるよね……っ……ここ気持ちいいんでしょ……すごい締まるっ……」
夏樹が執拗にソコを責めて来る。
雪夜は、頭が朦朧として景色が霞む中、ぼんやりと夏樹を見た。
夏樹の顔にも余裕がなくなってきて、呼吸が荒くなっている。
あ、夏樹さんも気持ちいいのかな……もっと俺で気持ち良くなってくれたらいいのに……
いつもはもう少し上体を起こしているのに、今日は雪夜が不安にならないように、夏樹さんはずっと顔が触れる位置で、上半身もほとんど密着した状態でシてくれている。
そのため荒くなった夏樹さんの息遣いが耳元に直接届いてきて、胎内がキュッと疼いた。
「っ……雪夜っ、そんな締めないでっ……つられるっ」
夏樹が一瞬余裕のない声になって眉を寄せ、雪夜を宥 めるように舌を絡めてきた。
「ん……ふっ……っっぁ……んん゛っ」
口腔内を舌で蹂躙 されながら、胎 の奥を夏樹に突き上げられる。
雪夜の腰を掴んでいる夏樹の手が熱い……
雪夜は快感に溺れそうになって夏樹にしがみついた。
「あぁっ……もう、イ……っイっちゃう……っん、あア゛ぁっ!!」
小さく身体を震わせて勢いよく熱を放ち、一瞬頭の中が真っ白になる。
……ぇ……俺……後ろだけでイっちゃった……の?
雪夜が肩で息をしながら余韻に浸っていると、夏樹がこめかみにキスをして、そのまままた腰を動かし始めた。
「っ雪夜、まだトんでないよね。もうちょっと頑張って」
「ふぇ?……うそっ……やっ夏樹さ……今動かないでっ……ぁんっ……あっア……」
イったばかりで敏感になっているところをまたさっきの場所を責められて、次々に襲い来る快感にすぐにまた雪夜のソレが屹立した。
「やぁ……っ変になるらからぁ……ぁんっ……もっ……やぁらぁ……っああ゛……」
自分が自分じゃなくなるような初めての感覚が怖い……
無意識に夏樹から身体が逃げようとする。
「雪っ、変じゃなくて気持ちいい、だよ。もっと気持ち良くなろうね」
ペロリと舌なめずりをした夏樹が、愉しそうに笑う。
夏樹の胸を押しのけようとする雪夜の手を取って手のひらに口付けをすると、指を絡めて雪夜の頭の上でギュっと握りしめた。
「ひっ……んっ、ぁあアっ……っいい、きもちい……っなつきさ、っ……もっとっ、ンっあ、っ……」
身体の自由を奪われて夏樹に揺さぶられるままになった雪夜は、無駄な抵抗を止めて快楽を受け入れた。
夏樹さんにされるなら……もうどうなってもいい……ずっとこのまま抱かれていたい……
「ふっ……か~わいっ……もっと俺でいっぱいになって」
夏樹が淫靡に微笑んだ。
あ~ヤバいっ……そんなエロイ顔されたら……俺……またっ……
「もっ……いっぱいだからぁ~っ……あっ、またイっ……ああ゛っん……あ゛~っ……っ」
何回イったのかわからない……ずっとイっているような気もする……
後ろの感覚も麻痺してきて、夏樹との境界線もわからない。
お互いの体温が馴染 んで、身体が溶け合って一つになっているような甘くて愛しい多幸感に包まれていた。
「雪夜……今、雪夜を抱いてるのは誰?」
「あ゛っ……っん……なつきさっ……」
「ん……っ忘れないで、雪夜を押し倒していいのは俺だけだよ」
「はぁっ……なつ……きさ、やっん……もっ、らめっ……」
「雪夜、愛してるよ」
「ああっ……ひぁっ……あっきもちい、なつきさ……そこもぅ……やぁっ、ああ゛~っっっ!!――」
覚えているのは、夏樹があちこちにキスをしながらずっと、愛してると囁いてくれたこと。
耳鳴りはいつしか鳴りやんで、もう夏樹の声しか聞こえなくなっていた――……
***
ともだちにシェアしよう!