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どんなに暗い夜だって… 3-3(夏樹)
「で、それなのに飲んでるわけですか、お前は」
「ビール一杯だけだろ!?こんなの飲んだうちに入らないし……後はちゃんとウーロン茶にするし!!久しぶりなんだからちょっとくらい飲ませろよ!!」
帰る途中、吉田から飲みの誘いが来たので、いつもの居酒屋で落ち合った。
「雪ちゃんが調子悪いからって仕事休んで1か月付きっきりねぇ……あのお前が、他人の世話を焼いてるとは……」
しばらく誘いを断っていた理由を簡単に話し終えた途端、吉田のニヤケ顔が止まらなくなった。
「おい、何が可笑しいんだよ……」
「だってさ、昔のお前は相手のために自分が何かを犠牲にするなんてこと絶対しなかっただろ。人間に興味がないっていうか……女の扱いは上手かったけど、尽くすより尽くされるタイプっていうか……誰といても何をしても、いつもつまんなそうな顔してさぁ。だから、よほど雪ちゃんに惚れてるんだろうな~と思って」
……ひねくれていた夏樹と違って、吉田は昔から思ったことをストレートにぶつけてくる。
たまに痛いところをついても来るが、あまり嫌な気はしないのは……こいつの人柄のせいだろう……
「あ~……でも、お前といるのは楽しかったよ」
夏樹がジョッキを空けながら視線を逸らして呟くと、隣で吉田がひっくり返りそうになった。
「え、マジで!?それ初耳なんですけど!!なんだよ照れるじゃんかぁ~!」
吉田が照れ隠しに夏樹の肩をグリグリと押して来る。痛いっつーの!!
「だって、お前強かったから。俺、加減しなくて良かったから思う存分暴れられたし。お前のおかげでストレス発散できてたから、楽しかったなぁ~……」
高校時代、柔道部部長で生徒会役員だった吉田は、ちょっとやさぐれ気味だった夏樹のいいケンカ相手だった。
手加減不要で思いきりケンカができるので、夏樹にとってはそれが楽しみでもあった。
「ぅおいっ!……それはなにか?俺がサンドバッグだったとでも言いたいのか?」
「……まぁ、そんな感じ?身体も大きかったし?」
「あ~あ~お前ってそういう奴だよな……ちょっと喜んだ俺の気持ちを返せっ!!」
「はあ?なんだよそれ……」
雪夜といるのはもちろん楽しいが、この一か月は気が抜けない状態だったので、やはりストレスが溜まっていたのだろう……
吉田との他愛もない会話にほっとしている自分がいた。
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