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どんなに暗い夜だって… 3-8(夏樹)
帰宅した夏樹は、雪夜を抱っこしたままベッドに腰かけた――……
「雪夜、家着いたよ」
「……っ……っ」
「もうちょっと抱っこしとく?」
返事をする代わりに、夏樹にしがみついている腕に力が入る。
「ん、わかった」
この状態になったら、雪夜の気が済むまで好きにさせておくのが一番だ。
それに、夏樹としても雪夜が甘えてきてくれるのが久々で……ちょっと嬉しい。
***
――それからおよそ1時間。
雪夜の涙は止まったが、まだ身体が小さく震えている。
ん~……今日は久々に長いな……泣き疲れて寝るかと思ったんだけど――……
今日はなんの幻影を見たのかな……?
傷や痣が治りかけてからは、あの日のことよりも暗闇の方を怖がり、ひどい時には若干退行現象が見られた。
子どもの頃のトラウマは、夏樹が思っている以上に深いのかもしれない……
ただ、佐々木からの詳細メールを読んだ限りでは、今回のきっかけがトラウマから来ているようには思えない……
そういえば……『夏樹さん怒らせちゃった……』って言ってなかったか?
ということは、今日は俺のせいか……?
え……俺、そんな怯えさすようなことしたっけな……もしかして昨日のアレか?
やっぱり別の体位でした方が――……
「……なつ……きさん……」
ぼんやりと考えながら雪夜の背中を撫でていると、急に名前を呼ばれた。
「ん?どした?」
寝言かと思ったが、もぞもぞと顔を起こしたので寝言ではないらしい。
雪夜の顔を覗き込むと、ちょっと赤くなっている瞳が見つめ返してきた。
「……きすしてもいい?」
ずっと泣いていたせいか少し掠れた声で雪夜が囁いた。
「っ!?……いいよ、もちろん」
雪夜の言葉に……驚きすぎて一瞬息が止まった……
夏樹が茫然としていると、雪夜はまだ泣きそうな顔のまま、夏樹の口唇に柔らかい口唇を押し付けるだけの軽いキスをした。
「おれ……なつきさんが……だいすき……」
雪夜は口唇を離すと気まずそうに視線を泳がせながら、ゆっくり俯いた。
ちょっと雪夜さん?大好きって顔じゃないでしょそれ――……
「俺も大好きだよ」
夏樹が言うと、雪夜の耳が少し赤くなった。
「あの……ね……大好きすぎて……どうしたらいいのかわかんない……」
「……っ……何が?」
待って……今この子なんて言ったの!?大好きっつった!?
「一緒にいればいるほど……好きが大きくなっちゃって……欲張りになっちゃう……いっぱい触って欲しいし……いっぱいキスして欲しいし……いっぱい……抱いて欲しい……でも、恥ずかしいし……っていうか、こんなこと考えちゃう自分がもう嫌で……っ」
雪夜がまた泣き出した。
え~待って待って、まさかの夢オチとかないよな?だったら怒るぞ!?
「……っ佐々木のとこに行って……っ……でも……やっぱり夏樹さんがいないとダメで……ヒック……淋しくてっ……会いたくてっ……」
んん゛!?何なのこの可愛い生き物!? 萌っ……っっっ!!!!!
一瞬萌えすぎて真顔になったが、すぐに顔が緩んできた。
「ゆ~きや、泣かないで、こっち向いてよ」
「でも……夏樹さん怒ってる……」
「怒ってないよ?何で俺が怒るの!?」
むしろ今はだらしなく頬が緩むのを堪えるのに必死なんですけど!?
「だって……同棲してるのに……佐々木のとこに行ったから……抱いて欲しいって言ったの俺なのに……っ……ごめんなさいっ……」
あ~……そういうことか……
「ふふっ……っははは……っっあ~~~なんだ、そういうことねっ」
もう堪えきれなくて、思わず笑ってしまった。
「雪夜、理由が理由なんだから、俺が怒るわけないでしょ?」
「おこってないの?」
「怒ってないよ、でもちょっと淋しかった……帰ってきてくれてありがとね」
……照れて俺を直視できないから佐々木のところに行くと言ったり、俺を怒らせたかもと泣き出したり、急に熱烈な告白をしてきたり……俺の恋人はなんでこんなに――……っ
愛しさが込み上げてきて、雪夜がしたキスよりも濃厚なキスでお返しをする。
「ぁっ……っ」
絡めた舌を離すときに唾液が糸を引いて垂れた。
口の端から溢れた雫が、雪夜の口唇をより扇情的なものにしている。
雪夜が、蕩けた顔で夏樹を見上げた。
***
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