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どんなに暗い夜だって… 3.5-2(雪夜)
それからしばらく経ったある日――……
「雪夜、それ飲んだらこっちおいで」
風呂上りにお茶を飲んでいると、夏樹さんに呼ばれた。
言われるままにベッドに腰かける。
「ちょっと話をしようか」
夏樹がにっこりと笑った。
ん~……なんだろう、その笑顔は……
「話……ですか?」
「うん、この間のことについて」
「この間って……もしかして……佐々木の家にいった時の……?」
佐々木の家に泊まろうとしたあの日のことについて、夏樹さんは俺を責めるようなことは言わなかった。
そのかわり、また俺に手を出さなくなった。
佐々木は、俺のメンタルが急降下して夏樹さんが迎えに来てくれただけだから、気にしなくていいと言っていたけれど、やっぱり……夏樹さんは怒ってるのかな……というか、もう呆れちゃってる?
「雪夜は何がイヤなの?」
「……え?」
予想外の問いかけに、思わず口を開けたまま固まった。
「あ~ごめん、唐突過ぎたね。ん~……この間、ヤった次の日は俺と顔を合わせるのが恥ずかしいから佐々木君の家に行くって言ってたでしょ?」
「……あ、はい……すみません……」
「雪夜が恥ずかしがりやなのは知ってるけど……雪夜はさ……抱かれるのはイヤじゃないんだよね?」
「え……はいっ!……それは全然……むしろ、その……嬉しいっていうか……」
「でも、抱かれて自分が乱れるのはイヤ?」
これ一体何が始まったんだ?
どういうことだろう……乱れるって……あの頭がぼーっとしてわけがわからなくなること?
「い……や……というか……えと……わからないですけど……その……夏樹さんはいつも余裕いっぱいだし……俺、男だから声も我慢しなきゃって思うのに、結局我慢できてないし……なんか……俺ばっかり気持ち良くなって……してもらってばっかりだし……一緒にいるだけで……よ……欲情してるとか気持ち悪いし……」
「はい、それね」
夏樹がピシっと人差し指で雪夜を指差した。
「……へ?」
え、どれ?
夏樹の質問の意図がわからず、頭の整理がつかないままダラダラと思ったことを並べていたので、夏樹が何に反応したのかわからなくてキョロキョロと周りを見回した。
「一緒にいるだけで欲情して何が悪いの?」
「……ぇ……」
「俺言ったよね?俺も、雪夜と一緒にいるだけで欲情してるって」
「……でも、夏樹さん……いつも余裕で……」
「あのね、好きな子とずっと一緒にいるのに欲情しないわけないでしょ?俺の場合は単にあまり表情に出ないのと、それなりに経験値があるから耐性がついてるのと、めちゃくちゃ頑張って自制してるだけだよ」
「……」
夏樹の言葉が意外すぎて返事に困る。
夏樹さんが自制?俺なんかに?
「雪夜は、もっと自分の欲望に忠実になればいいと思うんだよね」
「欲望に……?」
「うん、性欲だけじゃなく、他の欲望にもね。でもまぁ、とりあえず今は性欲ね」
「せ……性欲……」
なぜか夏樹さんが言うとやけに生々しく聞こえる――……
「後、性癖とか?」
「……ぁ……あの……一体何を……」
「雪夜は、俺に欲情してる自分が気持ち悪いって思っちゃうわけでしょ?でも、好きな相手に欲情するのは当たり前のことで、俺も雪夜に欲情してる。だから、そろそろそういう気持ちをちゃんと受け入れられるようになろうか。じゃないと、雪夜に欲情してる俺まで気持ち悪いやつってことになっちゃうよ?」
「夏樹さんは気持ち悪くないですっ!!」
「……うん、じゃあ雪夜も気持ち悪くないでしょ?」
「俺は……」
俺も……同じなの?気持ち悪くない?
「だいたいね、人間なんて煩悩まみれだよ。道行く人の頭の中覗いたら、大抵はエロイ事考えてるよ?男はもちろんだし、女だって顔のいい男みたらベッドの中のことを想像してる」
「ぇええ!?」
そんなに!?え、女の人も……!?
「ぃや、これはマジで。俺の頭の中だって、雪夜が覗いたら引くと思うよ?」
「え、なんで……」
「だって、俺しょっちゅう雪夜にムラムラして抱きたいと思ってるし」
「ム……っ!?夏樹さんが!?」
「……雪夜は一体俺を何だと思ってるの……」
夏樹が呆れたように苦笑した。
「ん~……雪夜が絶対引かないって約束してくれるなら、ちょっとだけ俺の頭の中見せてあげようか?」
「へ?頭の中を見せるってどうやって……」
言っている意味がわからず、キョトンとしている雪夜に、夏樹がフッと艶やかに笑ったかと思うと、急に空気が変わった――……
***
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