「……ん？」 　ふと、気が付いた。 　佐々木と相川の話ばかりしていたが、雪夜に付きっきりでどこにも出かけられない人がもう一人。 　同棲してから一緒に帰宅するのが当たり前になってしまっていたので、完全に忘れていた…… 　いやいや、忘れちゃダメでしょ！？ 「あっ！あの……夏樹さんもっ！！」 「おっ……とぉ……！？」 　勢いよく振り向きかけた雪夜の身体が夏樹の腕に当たったせいで、もう少しで夏樹の手からお皿が落ちるところだった。 「……セーフ！……で、なぁに？」 「すみません……えと……あの、夏樹さんも……飲み会とか行って来てくださいね。俺のせいで最近行けてないですよね？」 　また夏樹に当たってしまわないように、小さい身体を更に小さくして、夏樹とシンクの間で石になった。 「俺のことは気にしなくていいよ」 　両手がふさがっているので、夏樹が雪夜の頭にコツンと顎を乗せてきた。 「でも……前はしょっちゅう会社の人やお友達さんと飲みに行ってたんじゃないんですか？」 　平日は会えなかったけど、メールや電話はくれていた。それによれば、たいてい仕事帰りに同僚や友人と飲みに行っている様子だった。 「同僚は会社の付き合いでたまにね。前は帰ってきても一人だったから……一人分の晩飯をわざわざ作るのが面倒で、外で済ませてただけだよ」 「あ～……あの……仕事で疲れて晩御飯作るの面倒な時とかは、好きな物食べてきてくださいね！？俺も連絡貰えれば適当に食べてきますし……」 　夏樹さんは同棲してから、毎日ご飯を作ってくれている。 　どれも凄く美味しくて、日々の雪夜の楽しみでもある。 　でも……仕事で疲れてるのに毎日毎日作るのは大変だよね――…… 「全然面倒じゃないよ？自分の分だけ作るのは面倒だけど、今は雪夜と二人分だしね。一緒に食べてくれる恋人がいて、しかもその恋人がめちゃくちゃ美味しそうに食べてくれるんだよ？そんなの、面倒どころか、いくらでも作ってあげたくなるに決まってるでしょ？」 　夏樹が雪夜の頭の上で、ふふっと笑った。 「じゃぁ……俺……も……料理作れるように頑張ります……！」 「え、なんで？」 「だって……俺も夏樹さんに作ってあげたいから……いつも作って貰ってばっかりだし……だから、いろいろ教えて下さいね！」 「……っ～～～～～～っっっ！！」 　夏樹が、スポンジをグッと握りしめて、小さく唸りながら雪夜の肩に顔を埋めてきた。 「夏樹さん？」 「ごめん、ちょっとだけこのままでいさせて……」 　深呼吸をして、絞り出すように呟いた。 「は……い……別にいいですけど……はっ、もしかして具合悪いですか？だったら残りは俺が洗っておくから、横になっててください！」 「ん……大丈夫……」 「……無理しないでくださいね！？」 　何が原因なのかわからない。 　さっきまで普通だったのに……お腹痛いのかな？どうしよう…… 　とりあえず残りを洗ってしまおう。 　雪夜は夏樹の手からスポンジを抜き取り、残りの食器を洗った。 ＊＊＊