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どんなに暗い夜だって… 4-5(雪夜)

 泡を洗い流そうとした瞬間、スッと夏樹の手が伸びてきて雪夜の手から食器を取り上げた。 「ごめんね、ちょっと可愛いが大渋滞してて……」 「……へ?……渋滞?」  何の話だ? 「いや、気にしないで……あ~今後ろ向いちゃダメ!!」  雪夜が夏樹の方を見ようとしたら、夏樹が器用に肘の内側で雪夜の頭を挟み込んで固定し、後ろを向けなくしてきた。  何で後ろ向いちゃダメなんだろう?俺の顔見たくないってこと? 「夏樹さん……俺……なんか気に障ることしちゃいました?」 「え?あ~違う違う。今、俺の顔めちゃくちゃ変だから見ないで欲しいだけ」  あぁ、なんだ。良かったぁ~……って、えっ!?  夏樹さんの変な顔!?見たいっ!!  頭を固定していた夏樹の腕を掴んで少し緩めると、一気に後ろを振り向いた。 「わっ、ちょっ!!」  夏樹は耳まで赤く染めて、困ったような笑いを押し殺しているような微妙な表情をしていた。 「あ~もぅ!見ちゃダメって言ったのに!!」  夏樹のそんな顔はあまり見たことがない……というか、初めて見たので、思わずマジマジと見入ってしまった。  雪夜の視線から逃れるように、顔をプイッと背けて拗ねているのもレアだ。  夏樹さん……そんな表情もするんだ……照れてるの可愛い……っ!! 「もしもし、雪夜さん?ガン見しすぎ……」  夏樹が照れ隠しに、少し眉間に皺を寄せ、視線だけ動かして雪夜を見た。 「え?あ、すみませんっ!」  急いで視線を下げる。 「どうせなら、もっとカッコいい顔してる時に見惚れて欲しいんだけどな~」  夏樹がため息を吐いた。 「夏樹さんは、いつもカッコいいですよ?」  どんな顔をしていても、イケメンはイケメンだもの。ズルい…… 「え、そう?」  眉をピョコンと上げて夏樹が嬉しそうに笑った。 「はい、カッコよすぎてあんまり直視できないです」  特に瞳を合わせるのは無理!!  だから、夏樹の方が視線を逸らしている今じゃないと、マジマジと見られない…… 「いや、それはどうなの……彼氏の顔なんだから慣れようよ!!」 「慣れるのは無理ですね!!夏樹さんの顔が近付いてきたら勝手に視線が逸れていっちゃうからっ!!」  あ~でも、夏樹さんがこっちを見てなかったら、顔が近付いてきても……いや、ダメだな。  イケメンは遠くから眺めるに限るんですよっ!!  近距離で目を逸らさずにいられるのは、同じくらい自分の顔に自信のある人間じゃないと無理でしょ!? 「無理って言い切っちゃうの!?……え~……そういうこと言う子には……視線を逸らさずにいられるように特別指導でもしようかな……」 「……ふぇ?」 「な~んてね?」  夏樹がにっこりと笑った。いや、それ本気の顔だ…… 「それより雪夜はどうなの?みんなと飲み会に行きたい?」  夏樹が急に話題を変えた。 「え?あ~……俺は……お酒は弱いんで……正直飲み会は苦手です」 「弱いんだ?へぇ~……じゃあ、今度家で一緒に飲もうか」  夏樹が笑いながら、雪夜のこめかみに口付けをした。 「え?……あ、はい……」  俺お酒弱いって言ったのに……!?  う~ん……俺、夏樹さんのお酒の相手なんてできるかな……夏樹さんお酒めちゃくちゃ強そう――…… ***

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