80 / 715
どんなに暗い夜だって… 4-9(雪夜)
「あ~……助かったよ。ありがとう」
「いえ……っていうか……地震来なくても普通に危ないじゃないですかっ!!!なんでもっと早く片付けなかったんですかっ!?」
10分程かけてようやく本の下から引っ張り出した。
雪夜は、なんとか無事に助け出せたことにほっとしながら、思わず怒鳴っていた。
あ、この人先生だった……まぁ、自分の専攻じゃないからいいか。
「いや~……なんていうか、片づけるの苦手なんだよね。自分ではどこに何があるのかわかるし、そんなに困らないから放っておいたんだけど……さすがにヤバいよね」
緑川は、学生に怒鳴られたことなど気にしていないようで、あはは、とのんきに笑った。
大学の先生はわりと変人が多いものだけど……この人も大概だな……
雪夜が呆れて眺めていると、
「きみ、大丈夫?顔色悪いよ?」
そう言って、雪夜の顔を撫でてきた。さっきまでのんきな顔をしていたのに、急に真面目な顔になったので驚いたのと、その手が意外に優しくて一瞬夏樹を思い出してしまい、ピクリっと小さく反応してしまった。
「っん……ぁ……あの、大丈夫ですっ!!ちょっと……びっくりしただけなんで……」
ちょっと声を漏らしてしまったのが恥ずかしくて、慌てて顔を背けて誤魔化す。
「……ふぅ~ん?……それならいいけど……」
緑川の目が一瞬怪しく光ったが、雪夜は誤魔化すのに必死で気付かなかった。
「そ……それよりもっ!!これ一体どうすればいいんですかっ!?」
じっと見つめて来る緑川の視線から逃れるため、立ち上がって自分の周りの本の瓦礫 たちを指差す。
「あ~……どうしようかなぁ?一応ここ本棚あるんだけどねぇ……」
そう言って緑川が指差した方向を見ると、本の山の奥に微かに棚のようなものが見えた。
「……本棚にたどり着くまえに、本が崩れそうですね……というか、確実にこれ本棚に収まりきらないと思いますけど……」
「だよねぇ……仕方ないから、今現在必要な物と、しばらく必要じゃない物とで分けて、しばらく使わない物は段ボールにでも詰めて家に持って帰ろうかな」
「……段ボールすごい数になりそうですね……とりあえず、購買で段ボール余ってないか聞いてきます」
「あ、待ってっ!きみの名前は?」
雪夜が扉に向かおうとすると、緑川に呼び止められた。
「え……あ、すみません、俺名乗ってませんでしたね。上下の“上”に代表の“代”で、“かみしろ”って読みます」
「上代君か……下の名前は?」
下の名前まで必要かな?まぁ、いいけど……
「えと、雪夜です」
「そっちの方が呼びやすいな。雪夜君でもいいかな?」
「あ、はい。好きに呼んでくれて構いませんよ。じゃあ、段ボール集めてきます」
***
ともだちにシェアしよう!