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どんなに暗い夜だって… 4.5-7(夏樹)
「ぁっ!……っん……」
うつ伏せになった雪夜の背中を撫でると、ピクッと身をよじった。
「痛い?」
「ん……大丈夫……です……」
「ホントに?」
今のはどう見ても、痛い時の反応だと思うけど。
「……ちょっとだけ……でも、大丈夫です」
……ぁ……もしかして……
筋肉痛のひどいところを、狙って撫でる。
「っっ!……んんっ……」
雪夜がシーツをギュっと握りしめて、声を押し殺した。
「雪夜、噛んじゃダメだよ。声我慢しなくていいから」
自分の手の甲に噛みついていたので、その口に指を突っ込んで開けさせる。
「ぁ……はっ……っっ」
「そんなに痛いならやめようか?」
「……やら……違っ……痛いけど、なんか……変……っ」
雪夜が少し頬を上気させながら涙目で夏樹の手を握ってきた。
マッサージをしていた時は笑っちゃってたけど、ようやく気付いたかな?
「変じゃなくて、気持ちイイんでしょ?」
「ぇ……あっんっっ!!」
「筋肉痛のとこ……痛いけど気持ちいい?」
「わ……かんないけど……なんかゾワゾワする……んっ……」
もともと感度がいいのに、筋肉痛のせいで余計に敏感になっているらしい。
痛みが快感になってきていることに雪夜はまだ気付いていないようで、初めての感覚に戸惑っているようだ。
***
雪夜は“初めて”をひどく怖がる。
体位や感覚、自分が経験したことのないものは不安になるらしく、慣れるまでが大変だ。
体位と言えば、今は後ろからでもできるようになったけど、これも最初は夏樹の顔が見えないのを怖がって怯えて大変だった。
何が大変って……雪夜の怯えた泣き顔がまたやたらと可愛いから……自分の中のドS心を抑えるのが大変っていう――……
無理やりやっても怒りはしないだろうが、精神的にキャパオーバーすると途中でトぶし、後で発作が起きやすくなるので、なるべくゆっくりと慣らしていくように気を付けている。
夏樹のそんな苦労を雪夜は知らない。
煽るなって言ってあったのにな~。
こんな反応されたら……もっと虐めたくなってくるよね~……
「なつ……きさん?」
「ごめん、自制きかなくなりそうだから、ちょっと待って……」
痛みが快感になってきているなら、我慢する必要はないと思うけど……そのまま続けると抑えがきかなくなって酷くしてしまいそうで、雪夜を背中から抱きしめた。
「自制しなくていいです……よ?」
雪夜が、肩口に埋めている夏樹の頭を軽く撫でる。
「……こぉら……煽っちゃダメって言ったでしょ~?」
顔をあげて、雪夜の顔を覗き込んだ。
「あああ煽ってませんよっ!?……でも……筋肉痛は別にケガとかじゃないし……俺が運動不足なせいだから……その……あんまり気にしなくてもいいです……よ?それに、俺女の子じゃないから……そんなに優しくしてくれなくても……」
「当たり前でしょ?雪夜の方が可愛いし」
「え!?いやいやいや、そんなわけないし!!っていうか、そんな話じゃなくて……」
「女扱いしてるわけじゃなくて、雪夜のことが好きだから大事にしたいだけだよ」
実際、今までの相手にこんなに気を使ったことはない。
自分が気持ちよければそれでよかったし、相手を悦ばせようだなんて考えたこともなかった。
そもそも、ここまでドS心をそそられる相手もいなかった。
好きだから大事にしたい、気持ちよくしてあげたい。
でも……その気持ちと同じくらいに――……
「雪夜の泣き顔が可愛いから、もっと泣かせたくなっちゃうんだよね。自制してないと、雪夜が本気で嫌がった時に、止められないから――……」
「あの……俺夏樹さんにされて嫌なことなんてないですよ?……ぁ、えっと、嫌って言っちゃうことがあるかもですけど……でもそれは……は、恥ずかしいからで……本気で嫌なことはない……です」
「っ……!?」
ホントにこの子は……っ!!!!
何言ってんの!?何言ってくれちゃってんの!?
俺にされて嫌なことはない!?
そんなことサラッと言う!?このタイミングでっ!?
あ~もう無理っっ!!!
大きく息を吸い込んでゆっくり吐き出すと、雪夜をゴロンと仰向けに転がした。
***
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