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どんなに暗い夜だって… 番外編-7(夏樹)
もう少しで家に着くというあたりで、異変に気付いた。
暗い……
周囲の家の明かりがなさすぎる。
もしかして……この一帯だけ停電してる?
「冗談だろ……?」
雨に濡れて額に張り付いた前髪をかき上げると、マンションの階段を駆け上がった。
***
「雪夜っ!?いる!?」
靴を脱ぐのももどかしく鞄と上着を廊下に置いたまま部屋に飛び込んだ。
真っ暗……とまではいかないが、部屋の中は薄暗く、時々光る稲光がやけに明るく見えた。
「雪夜!?」
部屋の中を見渡すが、暗くてよく見えない……携帯のライトを照らして雪夜を探した。
いたっ!
ベッドの上に、タオルケットにくるまっている丸い物体が一つ。
「見つけた!!」
「っっ……ひんっ……っく……なつっ……っ……」
近づくと、押し殺した泣き声が聞こえてきた。
携帯のライトをつけたままベッドの上に放り出し、タオルケットの上から抱きしめる。
震えていたタオルケットが、ピクッと動いた。
「ただいま、雪夜。大丈夫?」
タオルケットを引きはがして雪夜の顔を覗き込む。
「ひゅっ……っぁ……っく……っ……」
あ、まずいな……
ライトでほんのりと照らされた雪夜が、涙目で眉間に皺を寄せていた。
遅かったか……
心の中で自分に舌打ちをする。
「雪夜、俺がわかる?雪夜?こっち見て!!」
パニック発作からの過呼吸発作のせいで呼吸が上手くできていない。
雪夜の耳からヘッドホンを外して呼びかけるが、大きく開かれた雪夜の瞳には何も映っていないようで、いくら呼びかけても夏樹の方を見ようとしなかった。
だめだ……俺の声聞こえてないな……
呼吸が苦しいせいでパニックになっている雪夜が、夏樹の腕に縋り付いてギュっと握ってきた。普段では考えられない強さで握られ服の上から爪が食い込んでくる。
「痛っ……雪夜!!大丈夫だから、落ち着いて!雪夜!!」
抱きしめて背中を擦りながら、頬をくっつけた。
この感じだとまだ発作が起きてからそんなに時間経ってないはず……それなら……
「大丈夫……俺が傍にいるから……ね?雪夜、大丈夫だから……大丈夫……」
過呼吸で喘ぐ雪夜の口唇を塞ぎながら、ゆっくりとベッドに押し倒す。
「んん~!!!……っっやっ!!!っんむ……っ!!」
顔を背けようとする雪夜の顎を固定して無理やり口唇を塞ぐ。
一気に塞ぐと余計にパニックになるので、少しずつ長くしていく。
もがく雪夜を押さえつけているこの時間が一番辛い……
「っぅ……ん……ぁ……っ?なつ……?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔が、夏樹を見返してきた。
「俺の声聞こえる?よしよし、もう大丈夫……ゆっくり息吐こうか――」
雪夜の意識が夏樹に向いたので、抱き起して一緒に呼吸を整えさせる。
しばらく顔をくっつけたまま、雪夜にゆっくりと呼吸を促した。
発作の対処法は人それぞれだが、雪夜の場合は、意識さえあれば抱きしめられて、体温や心音を感じることが一番落ち着きやすいようだ。
ちなみに、このやり方は佐々木が試してもダメだったので、夏樹専用らしい。
夏樹の胸元にもたれかかる雪夜を見下ろして、そっと息を吐く。
心音ね……できれば今はあんまり心音聞かれたくないんだけど……
走った後だし、雪夜の久々の発作にちょっと焦ったので、今は心拍数がめちゃくちゃ跳ねあがっている。
夏樹のそんな心配をよそに、雪夜はギュッと耳を押し付けていた。
ちょっと落ち着いてきたかな……?
***
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