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どんなに暗い夜だって… 番外編-10(夏樹)

 自分用に服を取りに行くため雪夜を抱っこして立ち上がろうとする夏樹に、 「……ぃてくれないの?」  雪夜がポツリと呟いた。 「え?」 「……ん~ん……」  雪夜がモゾモゾと夏樹から離れる。 「着替えてきてください」  ベッドの上で膝を抱えて座り込んだ。  雷鳴はもうだいぶ遠ざかっていたが、まだ室内は暗いままなので、雪夜の表情が見えない。 「雪夜?どした?」 「大丈夫です……大丈夫……着替え……」  それだいじょばない声ですね、うん。 「スラックス脱ぐだけだから、ちょっと待って」  着替えを取るのを諦めて、スラックスを脱ぎ捨てるとまたベッドに戻る。 「着替えは?」 「いや、そんな声で言われて放っておけるわけないでしょ?」  そんな……今にも泣きそうな声で言われたらねぇ……  服は雪夜がもうちょっと落ち着いてから取りに行くか…… 「ほら、おいで。俺裸だけど」  はい、苦行(くぎょう)に入ります。  本当は、今日は家に帰るとすぐに雪夜を抱くつもりだった。  でも、発作の後だし、まだ不安定だし、何より……暗闇にトラウマがある雪夜を停電の中で抱くのは無理がある。  今日は我慢だな……  せめて服を着ていればちょっとはマシなんだけど……素肌に直接抱っこして反応するなっていうのはかなりキツイ……  まぁ雪夜が服着てるだけマシだけどね―― 「…って、雪夜さん?何してるの?」  夏樹は一瞬わが目を疑った。  なんで……服脱いでるの?ちょっと待ってよっ!!  目の前の雪夜は、夏樹の声を完全に無視して、せっかく夏樹が着せた服も下の服も全部サッと脱ぐとバサッと投げ捨てた。 ***  仄暗い室内で懐中電灯に照らされた雪夜の裸体に一瞬ドキッとする。  普段は暗闇を怖がる雪夜のために明るい室内でシているので、あの行為の時には身体の隅々まで目にしている。  だから雪夜の身体は見慣れているはずなのに、仄暗い中で見るとまた雰囲気が違って……そそられる。  細身で適度に引き締まっている腰のラインがやけに色っぽい。  裸になった雪夜が、夏樹の膝に(またが)ってきた。 「ちょっ……雪夜っ!?待って、そんな恰好してたら俺襲っちゃうよ!?」  出張帰りに雨の中を全力疾走したのでさすがに疲れていた。  その上、二日間も雪夜不足だったから、今の俺そんなに我慢効かないんですけどぉおおお!? 「だって……怖いんだもん……」 「え?何が?」 「ホントに夏樹さんかわかんない」 「……ん?」  え、この子何言ってんのかな?  ヤバい……不安定なせいで言動が迷子になってる……?  いや、でも夏樹さんって言ってるから、一応俺のことはわかってる…… 「暗いからわかんないっ!!」 「え、あぁ、顔見えない?」  雪夜の言葉の意味を図りかねて、ちょっと困惑してしまう。  俺の顔がちゃんと見えないから不安なのかな?  懐中電灯を持ち上げようとした手を雪夜が押さえた。  その手が少し震えていた。 「だから……ちゃんとギュってして?」  潤んだ瞳で見上げて来る雪夜の顔が少し赤くなっているように見えた。 「…………っわかった」  あ~何これ……  わかった――……  雪夜の言っている意味に気付いて思わず顔が熱くなる。  暗くて顔がよく見えないから身体で俺だとわからせろってことか……  何その誘い方……っっ!!   ***

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