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どんなに暗い夜だって… 5-2(夏樹)

「お待たせ」  雪夜の後ろに座って、耳の後ろに口付けながら背中から抱きこんだ。 「……んっ……」  首筋に口唇が触れると、一瞬ピクリと反応する。  それをごまかすように、雪夜が不自然に咳払いをした。  っ……可愛っ……!!  笑ったのがバレると雪夜が()ねて離れてしまうので、何とか堪えた。  以前は夏樹が触れると緊張して身体を硬くしていたが、同棲をしてからテレビを見る時はこの体勢が定位置になったので、だいぶ雪夜も慣れてきた。  雪夜が当たり前のように無防備にもたれてくる。  たったそれだけのことなのに、ほんのりと幸せを感じてしまう。   「夏樹さん、あれってなんだと思います?俺はCだと思うんですけど~……」  雪夜が画面に映るクイズ問題を指差す。 「ん~?あれはBじゃない?」 「え?Bですか……?Cじゃないの?」 「Aかもね」 「……Cではないんですね……」 「雪夜が選ぶのは大抵間違ってるから」 「ひどいいいいいっ!!俺だってたまには正解しますよっ!?」 「たまになの?」  むぅ~っと頬を膨らませてむくれているのが可愛いくて、笑ってしまう。  答えは知っているけれど、雪夜のこの顔が見たくてついからかいたくなる。 「ほらぁ~!!ほら、Cじゃないですかぁ~!!俺があたった~!!」  雪夜が画面を指差しながら、ドヤ顔でツンツンと夏樹の服を引っ張った。 「すごいすごい、じゃあ、正解した雪夜にはご褒美あげなきゃね」 「え、ご褒美!?」  突然雪夜が勢いよく振り向き、キラキラした瞳で夏樹を見上げてきた。  正直……そんなにご褒美に食いつくと思わなかったので、ちょっと吹き出してしまった。 「っ……うん、何がいい?」 「え~と……え~と……ご褒美……」  雪夜が真剣に考え込む。 「じゃぁ……あの……」 「うん」  数分間かけて悩んでいた雪夜が、おずおずと夏樹を見上げる。  一体何が欲しいんだろう?滅多に何かをねだることのない雪夜が欲しがるもの……  興味津々で答えを待った。 「あ……えと……やっぱりいいです」  何か言いかけた雪夜が、笑顔のまま固まって、スッと表情を曇らせ言葉を濁した。 「え?いらないの?」 「はい……あ、ほら、次の問題ですよ!!」  話を逸らそうと画面を見つめる横顔が、強張っていた。 「……ちなみに、なんだったの?欲しかったもの」 「あの……え~と……すぐには思いつかなくて……だからいいです」  ちょっと困ったようなしょんぼりした顔で笑う。  いや、そんな顔されたら余計に気になる。 「ゆ~き~や?言ってごらん」  雪夜の顎に指をかけて上を向かせる。 「ぅ~……あの……その……」 「うん、なぁに?」 「で……」 「で?」 「デートが……したい……な~……なんて……ああああごめんなさい、やっぱり今のナシでっっっ!!!」 「……っ」  予想外の言葉に驚いて一瞬固まった。  いや、固まってる場合じゃないからっ! 「いいよ?」 「……え?」 「デートしようか。俺も雪夜と出かけたいと思ってたんだよね。同棲してからまだちゃんとデートしてなかったしね」  雪夜の体調が不安定だったので、人込みに出るのは避けていたのだ。  出かけると言えば、日用品や食料品の買い出しくらいだった。  でも、もうそろそろ出歩いても大丈夫だろう……  今までは金曜の夜しか会えなかったので、デートと言っても食事に行くくらいしかできなかった。  夏樹が同棲をしたかった理由の一つが、雪夜ともっといろんな場所に出かけたかったからだ。  雪夜が本格的にバイトを再開する前に、いっぱいデートをしておきたい。 「……いや、あの……今のはホントにちょっと言ってみただけっていうか……」  夏樹があっさりと承諾したので、雪夜がびっくりした顔をする。 「したくないの?デート」 「し、したいですけどっ!!あの、俺が言ったのは……その、買い物に行くやつじゃなくて……あ、いえ、買い物でもいいんですけどっ……って、そうか、すみません、買い物……ですよね!!……え~と、あの……ちょっと俺トイレに……」  パニクった雪夜がトイレに逃げようとしたので、腰に手を回して立つのを阻止する。  なぁに?俺がいつもの買い出しのことと勘違いしてるとでも思ったの?  あれはあれで、いかにも一緒に住んでますって感じがして好きだけどね…… 「はいはい、逃がさないよ」 「いや、ちょっと……は~な~し~てっ……!」  手足をバタつかせて夏樹の腕を外そうとする雪夜を、軽くあしらいながら話を続ける。 「デートでしょ?買い物でもいいけど、どこか遊びに出かけない?」 「あああ遊びにっ!?」  暴れていた雪夜が動きを止めて夏樹を見る。  そんなに驚かなくても……雪夜が言ってたのもそういうことでしょ? 「雪夜はどこか行きたいとこある?休みの日だったらちょっとくらい遠くても大丈夫だよ?」 「え、でも……デートって俺……男ですよ……?」  雪夜が本気で困惑していた。それを見て夏樹も困惑する。 「……知ってるよ?何をいまさら……」  身体の隅々まで見てるんだから、雪夜が男なのはもちろん存じておりますが? 「だって、男同士でデートなんて……変に見られたりしませんか?」  雪夜が表情を強張らせて少し俯く。  あぁ……だからさっき言うの止めたのか…… 「男同士だろうが、恋人なんだから別にいいでしょ?っていうか、周りから見れば普通に男友達と出かけてるのと変わらないと思うよ?雪夜だって、佐々木君たちと遊びに行くでしょ?」  雪夜の頭を撫でながら、笑いかける。 「あ……そうか……」  ようやく、雪夜の表情が緩んだ――…… ***

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