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どんなに暗い夜だって… 5-3(夏樹)
「次の週末にでも出かけようか。どこか行きたいところある?」
「え、行きたいところ……ってどこですか?」
「いや、今それを雪夜に聞いてるんだけど……?」
「あぁぁぁすみません……あの……俺……その……そういう……デート……って……したことないか……ら……」
雪夜の語尾がどんどん小さくなって消えていった。
声と一緒に身体もシュンっと縮こまる。
「え、デート初めて?」
「は……はい……だって俺付き合うの夏樹さんが初めてだし……」
そういえば、雪夜は全部俺が初めてだったんだっけ――……
学生時代、別に付き合ってるわけでもない女の子ともよくデートをしていた夏樹にとっては、デートはそんなに特別なものじゃないので感覚の違いに戸惑う。
初めてっ!?マジかっ!!
え、どうしよう……大学生でデートが初めてとかあるの!?
いや、でも……そうか、デートも俺が初めてなのか~……
ヤバいな……めちゃくちゃ嬉しいっ……!
「……う~ん……わかった、じゃあ、どこか考えておくよ。雪夜も行きたいところが見つかったら教えて?」
「はいっ!」
雪夜が少しはにかみながら、嬉しそうに笑った。
なんだこれ可愛すぎるだろっっっ!!!!
デートするって言うだけでこんなに喜んでくれるとか……どこ連れて行こうっ!!!
初めてってどこがいいんだろう……初々 しすぎて逆にわからない……
溢れ出る愛しさに雪夜をギュッと抱きしめた。
「わっ……」
少し驚きつつも、雪夜がおずおずと背中に腕を回して来る。
発作の時とかは普通に抱きついてくるのに、素面 だとまだ躊躇 するんだよな~……
首元に顔を埋めると甘ったるい雪夜の匂いに脳が痺れた。
あ~……この匂いヤバい……押し倒したい……
雪夜の耳元で夏樹がスンスンしていると、雪夜が夏樹の顔を手のひらでグイッと押しのけた。
「うぐっ……ちょっと雪夜、なに?」
「あああああの……俺今日めっちゃ汗かいてるから……」
「ん?」
「だから、あんまり匂わないでください……っ!!」
夏樹の顔を押しのけたまま、真っ赤な顔で俯く。
え~……雪夜の匂い好きなのに……
「汗なら俺もかいてるけど……え、俺臭い?」
もしかして、遠回しに俺が臭いって言ってる!?俺ってもう加齢臭とか出てるの!?
雪夜に比べれば、自分の方が年齢的にも肉体的にもおっさんなのはどうしようもない事実だ。
雪夜が匂いに敏感なのであまり香水系はつけないようにしているのだが……
そうなると加齢臭とかごまかせないよね!?
え、体臭って他にどうやって消したらいいんだ!?
思わず自分の服をクンクンと匂う。
「いやいやいや、何言ってるんですか!!夏樹さんはいい匂いですよっっ!?」
「……雪夜もいい匂いだよ?」
「だ……だって俺お風呂入ってないですしっ!!」
「俺もまだ入ってないけど……お風呂入ればいいの?わかった、入ろうか」
なんだ、お風呂に入りたかったのか~。それならそうと言ってくれれば……
シャツをバサッと脱ぎ捨てて、雪夜を抱き上げ、風呂に向かう。
「へ?いや、そうじゃなくて!!……え、待って、一緒に入るんですか!?」
「うん、久しぶりに一緒に入ろうか。全身キレイに洗ってあげるね」
「ぜっ……あのっ……あのっ……え、ちょっ……っっっ――!!!」
***
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