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どんなに暗い夜だって… 5-5(雪夜)

「へ?デート?」  相川がお菓子を口に入れかけて止まった。  相川は、あれから20分後に遊びに来た。  佐々木の家と相川の家は徒歩5分程だ。  なぜ20分もかかったのかと言うと、佐々木のご機嫌を取るために、佐々木の好きなお菓子とジュースを買ってきたからだ。  もちろん雪夜の好きなものも買ってきてくれている。  相川は、こうやって妙に気が利くから人気があるんだろうな~――…… ***  雪夜が二人と出会ったのは大学に入ってからだ。  雪夜は、ゲイということを隠していても女顔と低身長のせいで冗談まじりに男にちょっかいを出されたりからかわれたりすることが多かった。  高校生の頃でも大変だったが、大学生にもなるとそういう輩は更に容赦がない。    何回か無理やり人気のない場所に連れ込まれそうになることもあったので、防犯ブザーを持ち歩いて誰かが近付けばすぐに鳴らすようになった。    普通に友達になろうとしてくれた人もいたのかもしれないけれど、  すぐに防犯ブザーを鳴らす被害妄想のある変な奴。  その上、無愛想で必要最低限の会話しかしない雪夜に次第にみんな飽きて離れて行った。  ゲイだけど、別に男なら誰でもいいわけでもないし、夏樹さんに会うまで、雪夜が好きになったのは、初恋の人と、小学生の頃の友達だけだ。それだって今となっては恋愛感情だったのかどうかもわからない……。  友達は欲しかったけど、一緒にいれば、仲良くなれば、好きになってしまうかもしれない。  雪夜には友達としての好きと、恋愛感情の好きがわからなくなっていた。だから、錯覚しないためにもなるべく他人と関わりたくなかった。  ただでさえトラウマが多いせいでみんなから変な目で見られることが多いし、被害妄想があると思われている。ゲイだなんてバレたら……これ以上他人に好奇の目で見られたくなかった……  当然、二人にも他のやつらと同じように接していたのだが、人懐こい相川と面倒見のいい佐々木は、孤立する雪夜を放っておいてはくれなかった。  さすがにゲイだということは打ち明けられなかったけれど、いろいろと頑なになっていた雪夜を深く詮索せずに、でもちゃんと見た目だけじゃなくて雪夜自身をみてくれて、本心から心配してくれて、友達になろうと言ってくれたのは二人が初めてだった。  二人に出会って初めて、“友達”としての好きがわかった気がした。  二人共、雪夜の大事な存在なので、その二人が恋人同士になって幸せそうにしてるのは、雪夜も嬉しい―― *** 「あ~俺もだいたい(あきら)と同じような感じかなぁ……金かけないなら、公園とか……あ、お祭りは?」 「お祭り?」 「週末、花火大会があるだろ。会場に行ったら人が多すぎるから大変だけど、ちょっと離れた場所によく見える穴場があるんだよ。まぁ、実は今日来たのもその花火に二人を誘いに来たんだけどな」 「あ゛?花火ぃ~?」  相川の持ってきたアイスを冷凍庫に入れていた佐々木が振り返る。 「うん、一緒に見に行かない?」 「花火かぁ……」 「佐々木~!一緒に行こ?俺、お祭りとか花火とか行ったことないから……」  相川の誘いを渋る佐々木に、雪夜がおねだりをする。 「え?あ~そういや雪夜は行ったことないんだっけ。……たしか……去年その話聞いて、来年は一緒に行こうなって話したもんな……よし、みんなで行くか!」  佐々木が話にのってきたので、相川とこっそり背中でグータッチをした。 「あれ、でも一緒にって、雪夜は俺らと一緒でいいのか?夏樹さんとデートする話は?」 「え~と……俺はみんなで行きたいんだけど……だめ?みんな一緒だと夏樹さん嫌かなぁ……あっ!……っていうか、俺が一緒だと二人の邪魔になっちゃうのか!!ごめんっ!!」  今までの友達ノリで一緒に行く方向だったけど、考えてみたら二人が恋人同士になったってことは、俺がいると邪魔でしかないよね…… 「何言ってんだよ、雪夜が邪魔になるわけないだろ?俺らのことは気にしなくていいから、今まで通りでいいよ。それに、一年前からの約束だしな!」 「そうそう。俺らは元々幼馴染だから、花火大会とかも二人で行ったことあるしね。だから、今回は雪ちゃんの方が大事。雪ちゃんは初めて行くんだから、いい思い出作らないとね!」  佐々木と相川が二人揃って雪夜を抱きしめてよしよしと頭を撫でてくる。  俺は小さい子どもかっ!?  二人はよく雪夜をこうやって子ども扱いする。  でもからかってるわけじゃなくて、雪夜のことを弟のように思っているかららしい。  いや、これでも同い年だよ!?と思うけれど、嫌味がないのでこの二人にされるのは素直に嬉しい。 「でも、夏樹さんにしてみれば、俺らの方が邪魔かもしれないけどな」 「いや、ダブルデートってことにすればいいだろ?どうせあの人俺らのこと知ってるんだし」  雪夜を挟んで、頭の上で二人が会話をする。 「ダブルデート!?なにそれ!なんかすごい響き……」  ダブルデートを知らない雪夜は、思わず二人を見上げた。 「いや、ダブルデートは単に二組のカップルが一緒にデートするってだけだからな?まぁ……学生だとよくするけど――……」 「いいんじゃね?俺らまだ学生だし!それに、花火は夜だから、それまで別行動にしたら?」 「夏樹さんに聞いてみる!」  雪夜は、夏樹の休憩時間になったのを確認して電話をかけた――…… ***

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