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どんなに暗い夜だって… 5-8(雪夜)

 ――数時間後 「……佐々木ぃ~……付箋だらけになった……」 「ぶっ……くっ……はははっ……っっ!!」  相川と一緒にあーだこーだと言いながら、夏樹さんや相川たちと行きたいところをチェックしていたら、気が付けば本が原型を留めない程に付箋だらけになっていた。  まるで受験生の参考書だ――…… 「あ~……つまり、ほとんど行ったことなくてほとんど行きたいんだろ?じゃあ~……ちょっと貸して?」 「……はい」  腹を抱えて大爆笑をしている相川を放置して、佐々木は付箋だらけの本を手に取った。  しばらくペラペラとめくっては何かを書き込み付箋を貼りなおしてを繰り返す。  雪夜は、佐々木の隣で正座をしてその様子をじっと見つめていた。 「ほい、とりあえず、こっからここまで。今の季節じゃないと行けない所な。で~……俺らとよりも夏樹さんと行った方がいい場所にはこのマーク書いてあるから」 「え?」  よく見ると、ところどころ付箋に『夏』のマークが書いてある。 「そのマークのところから、夏樹さんとデートしたい場所探してみな?」 「はーい!」  佐々木は授業のノートをまとめたり、資料をまとめたりするのが上手い。  そして人に教えるのも上手い。  家庭教師のバイトもしているらしいが、たしかに先生に向いている。  その能力はこんなところでも発揮されるらしい……  付箋を貼り過ぎてごちゃごちゃだったのが、物凄くわかりやすくなっている。  夏樹さんと行きたい所かぁ……ホントは夏樹さんと一緒ならどこでもいいし、行けるなら全部行ってみたい。  そんなの絶対無理だけど――…… 「……バイト頑張ろ……」  夏樹さんと行くにしても、二人と行くにしても、出かけるためにはやっぱりお金がいる。  バイトをもっと増やすか?それか、もうちょっと給料のいいところを狙うか…… 「雪夜、ダメだぞ?」 「え!?な……何が!?」  突然佐々木にダメ出しをされて焦る。 「どうせ、てっとり早く稼ぎたいとか考えてるんだろうけど、給料のいいところは大抵ろくな内容じゃないからな。変なことに巻き込まれることもあるから絶対に手出しちゃダメだぞ?」 「ふぁ~ぃママ……」  なんで俺の考えてることが分かったんだろう…… 「そんなに焦ることないって。今年がダメなら来年もあるだろ?それとも、また夏樹さんと別れる予定でもあるのか?」 「……え?」  佐々木にしてみれば軽い冗談なんだろうが、一瞬ドキッとしてしまった。 「そそそんなのあるわけない……と思う……」 「なぁに弱気になってんだよ」 「だって……先のことはわかんないし……」  別れたっていうか、そもそもが嘘の恋人同士だったわけだから、あの半年間を付き合っていたと言っていいのかもわからないけど……一度別れたってことは、二度目もあるかもしれない…… 「……あ~……ごめん、今のは冗談でも言っちゃダメだよな。俺が悪い。ごめん!」  佐々木が一瞬顔を顰めると天を仰いで、雪夜に頭を下げた。   「だけど、別れてもお互いにやっぱり好きだったからちゃんと付き合うことになったんだろ?だったら、もうちょっと夏樹さんを信じてやれば?夏樹さんは誰がどう見ても雪夜にべた惚れだけど、雪夜は夏樹さんにちゃんと気持ち伝えてる?初めての恋愛で戸惑うのはわかるけど、自分の気持ちは口に出さなきゃ伝わらないよ?」 「……ぅん……」 「でも、まぁ――……ノンケを好きになる不安は俺もわかるよ。あのバカもノンケだからな……」  笑い疲れて寝ている相川をチラッと見ながら、佐々木が少し声を落として雪夜に微笑みかける。その顔が少し切なかった。 「……うん……俺も言葉にしなきゃって思うんだけど……なんか、上手く言葉にできないんだよね……好きとか愛してるとかじゃ足りないくらい夏樹さんの存在が大きくなりすぎて……夏樹さんがいないと生きていけないっていうか……夏樹さんの全部が欲しいっていうか……待って、なんか俺めちゃくちゃ重いやつになってない!?」  言いながら、自分の想いの重さに改めてひいた。 「……それをそのまま夏樹さんに言ってやれば?それで十分伝わると思うけど?」 「そうそう、今の言葉すっごいグッとくる!!俺に言ったんじゃないけど!!で、(あきら)は俺に言ってくれないの?」  突然起き上がった相川が、背後から佐々木に抱きついた。 「おまっ!?……いつから起きてた……?」 「ひ・み・つ!」  そういうと、相川が佐々木の頬にチュッとキスをした。 「はぁ……お前……ほんとに狸寝入り上手いよな……」  佐々木は、もう怒るのも面倒なようで、サラッと流す。  雪夜にしても、前にもっと濃厚なキスをしてるところを見ているのでほっぺにチュッくらいどうってことない。というか、それくらいなら付き合う前からしてたしね。 「狸寝入りじゃないし!二人が楽しそうだったから邪魔しないようにっていう気遣いだよ!?」 「盗み聞きは気遣いとは言わないんだよっ!!」 「照れんなって~!で、翠は俺に想い伝えてくれないの~?」 「あ~はいはい、好きだよ。大好き。うざいから離れろ!!」  佐々木が照れているのをごまかしながら、相川の顔を押しのけた。    なるほど……あの佐々木が、佐々木がっ!……照れながらもちゃんと好きって言ってる!!  俺も……夏樹さんに伝えられてる……?言ってるつもりだけど、たぶん、回数的には少ない気がする……  じゃれる二人を横目に、雪夜は夏樹さんのことを考えていた――…… ***

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