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どんなに暗い夜だって… 5-10(雪夜)

***  楽しいイベントのある時に限って、当日になると熱出す残念なやつっているよね?  どうも、俺のことです。 *** 「あ~……37.8度だ」  生まれて初めてのデートと花火とダブルデートというイベント尽くしの本日。  朝起きた瞬間夏樹さんに熱を測られました。  その結果がコレです。 「え、うそっ!!!いや、俺全然大丈夫ですよ!?」 「いやいや、大丈夫じゃないから。身体熱いし。朝でこれだったら上がって来るかもしれないよ?」 「微熱だから大丈夫ですよっ!!」 「雪夜?これは微熱とは言わないから」  必死に食い下がる雪夜を見て、夏樹が苦笑する。 「でも……でも……デート……花火……初めての……っひん……っく……っ」  めちゃくちゃ楽しみにしていたのに熱を出すなんて、自分が情けないやら、みんなに申し訳ないやら、悲しいやら、なんかいろんな感情がぐちゃぐちゃになって涙が出て来た。 「……おいで雪夜」  泣き出した雪夜を、夏樹が抱き寄せて背中を優しく擦ってくれた。 「あのね、とりあえず、お薬飲んで昼まで安静にしてみよう?熱が下がって体調が良ければ花火には行けるかもしれないよ?……ね?」 「でも……ご褒美ぃ~……」 「ん?」 「今日は……ご褒美の……っ……デート……っだったのに……特別なやつだったのにっ」  花火には行けるかもしれないけど、デートはもう――…… 「雪夜、デートは今日じゃなくてもできるから。また体調がいい時にしよう?」  夏樹が優しく笑って雪夜を覗き込む。  いつでもできるのはわかってる。いつも買い物デートしてるもの。  でも、そうじゃない……今日のデートは、いつもの買い物デートじゃない特別なデートだったのに……夏樹さんとの初めての――…… 「……違うの……わかってるのっ……女の人とするようなデートは……男同士だと無理なんだろうなって……でも、一回でもいいから夏樹さんと……恋人っぽいデートがしてみたくて……っ……だから……ご褒美くれるっていうから……思い切って言ってみた……のに……熱でるし……っやっぱり言わなきゃ良かった……ひっく……っ」  あんなわがまま言ったから熱出たんだ…… 「雪夜?」  夏樹の戸惑った声にハッとして口を押さえた。  こんなこと言っても仕方ないのに……  熱出たのだって、俺が自分の体調管理がちゃんとできてないせいだ。  だいたい、今回のデートも花火も俺は自分のことばっかりで……夏樹さんは俺に合わせてくれてばっかりで……俺……今日だけで一体どれだけわがまま言ってたんだろう……  熱のせいで、マイナス思考に拍車がかかる。  考えれば考える程わけがわからなくなってくる。  でも……夏樹さんが困惑しているのはわかる……  ダメだ……これ以上自分勝手なことを言う前に……さっさと寝てしまおう……寝て……諦めよう…… 「……夏樹さん、あの……ごめんなさい……」 「……ん?何が?」 「なんか俺……あの……ご褒美にデートとか花火行きたいとか無理言ってすみません……全部忘れて下さい。困らせてごめんなさい……あ、佐々木に連絡……」  佐々木にも熱が出たことを連絡して謝らなきゃ……と携帯に手を伸ばす。  夏樹がその手から携帯を取り上げた。 「いやいや、絶対忘れないよ!?無理なんかじゃないし、むしろ、もっと言ってくれていいんだよ!!っていうか、恋人とデートしたいっていうのは当たり前でしょ?俺は雪夜がデートしたいって言ってくれてめちゃくちゃ嬉しかった。俺も雪夜と二人でいろんなとこに行きたいから!!今日だって、俺も雪夜に負けないくらいすごい楽しみにしてたんだから!!」  夏樹が珍しく早口でまくし立てる。  雪夜はボーっとしていたので、夏樹の言葉がよく聞き取れなかった。  でもとりあえず夏樹の勢いに圧倒されて、涙が止まった。 「え……あ、はい……」 「あ、大きい声出してごめん……え~と……とりあえず、お薬飲もうか」  夏樹がハッと我に返って、深呼吸をした。    普段は冷静で余裕のある夏樹がこんな風に取り乱すのは滅多にないので、ちょっと新鮮だな……なんて他人事のように思いながら、夏樹に言われるまま薬を飲んだ。  そんなに高熱ではないはずなのに、薬を飲んだらすぐに眠気が来た。  横になると、頭の奥がズンと重くなって、意識がフワフワしてきた。 「寝ていいよ。昼になったら起こしてあげる。熱が下がってたら花火行こうね」  花火……せめて花火は行けたらいいな…… 「はぃ……手、にぎって……もいい?」 「いいよ」 「あのね……」  夏樹の手の温もりを感じながら、夢うつつに呟く。 「ん?なぁに?」 「おれね……もうごほうびいらない……デートしたいなんていわない……でもね……なつきさんとね……いきたいとこがいっぱいなの……おれね……がんばって……おかねためるからね……そしたら……いっしょにい……って……」  無理やり開けていた瞼がどんどん重くなって、瞬きのために一瞬瞼を閉じたらそのまま意識が暗闇に沈んでいった。   ***

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