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どんなに暗い夜だって… 5-11(夏樹)
夏樹は、雪夜の言葉に一瞬ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
言いようのない感情に胸が締め付けられる。
なんだよそれ……なんでそうなるの?
雪夜の声がどんどん小さくなっていって、最後は寝息にかき消された……
「……お金なんか貯めなくても……一緒に行くよ?……一緒に行ってよ……二人でいっぱい出かけようよ……デートしようよ……俺は雪夜と一緒に行きたいんだよ……ねぇ、雪夜が行きたいとこ教えて?どこでも連れて行くし、今年がダメなら来年でも再来年でも……絶対に連れていく……だから…………ずっと一緒にいてよ」
今言っても、どうせ目が覚めたら忘れてしまっている。
そもそも熱のせいで、きっと俺の言葉は今の雪夜に届いていない。
わかっているけど、言わずにはいられなかった。
***
雪夜に関しては予想外のことだらけなので、もうある程度耐性がついたと思っていたのだが、デートは盲点だった。
ご褒美にデートがしたいと言い出した時点でおかしいと気付けば良かったのに、ただ、雪夜からデートがしたいと言われたことが嬉しくて、重要なところを見逃していた。
なぜ恋人同士なら当たり前のデートをご褒美なんかに選んだのか――……
雪夜にとって、デートが当たり前じゃなかったから。
そうだよな、確かに、一年近く付き合っているのに、デートらしいデートを一度もしたことがないっていうこと自体異常なんだよ……
すべては俺のせい。
デートを特別なものだと思っていなかった夏樹にとっては、同棲前は雪夜との食事デートでも今までにないくらい十分楽しくて充実していたので、それだけでも満足だった。
もっと一緒にいたくなって……二人で出かけたくなって……同棲したいと思った。
それなのに同棲してからも、二人きりで過ごす時間が幸せすぎて、そのうちに出掛けられればいいかなんて考えていたせいで、雪夜に変な誤解をさせてしまっていたらしい。
雪夜にちゃんと……すぐには無理でも、雪夜が元気になったら二人でいっぱい出かけたいところがあるんだって、伝えておけばよかった……
違和感の正体にすぐに気付けなかった自分が嫌になる。
隣で眠る雪夜の頭を優しく撫でた。
こんなに……熱を出すくらい楽しみにしてたんだよな……
ゲイであることにコンプレックスを抱いている雪夜にとって、俺をこっち側に巻き込んだと引け目を感じている雪夜にとって、俺とデートがしたいというあの一言を言うのにどれだけ勇気がいったんだろう……
わざわざご褒美にかこつけないといけないくらい、言いにくかったってことだろ?
一回でもいいから恋人っぽいデートがしてみたいだなんて……恋人に言う言葉じゃないよな――……
雪夜……俺たち恋人なんだからデートなんていくらでもできるんだよ?
だいたい、今までだって、外歩く時に手を繋いだり抱き寄せたりするのはいつも俺からだっただろ?そんな俺が男同士だからってデートを嫌がるとかあるわけないだろ……っ!!!!
「あ~もう……くそっ!!!!」
やるせない想いに、ガシガシと髪をかき回した。
「……んん……」
雪夜が夏樹の方に身体を傾けて繋いでいた手を胸に抱き込んだ。
「……っ」
手から伝わるいつもよりも高めの体温に、少し冷静さを取り戻す。
熱で火照 っている頬を撫でると、雪夜の隣で横になり目を閉じた。
なんでこうなるんだろう……
雪夜のことを大切にしたいのに、なんだかうまくいかない。
愛してるのに、知らないうちに傷付けてしまう。
気持ちを伝えているつもりなのにすれ違ってしまう。
雪夜のことを一番に考えて動いているつもりなのに、結局は自分勝手になっている。
本気の恋愛って……難しい――……
***
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