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どんなに暗い夜だって… 5-12(夏樹)

「ん~……」 「どうですか!?」  体温計を見る夏樹を、雪夜が真剣な表情で見つめて来る。 「37.3度だね」 「下がった!?」 「まぁ、微熱だね。気分はどう?」 「全然大丈夫です!!」 「ホントに?」 「ほ……ホントです!!……ダメ……ですか?」  雪夜が捨て犬のような顔で、夏樹を見上げる。 「……わかった。じゃあ、花火見に行こうか。でも、具合が悪くなったら無理せずにちゃんと言ってね?」 「はいっ!!!」  満面の笑みで元気よく返事をする雪夜に、思わず苦笑する。  絶対、無理するんだろうな…… ***  お昼過ぎまでぐっすり眠った雪夜は、気合で熱を下げてきた。  まだ微熱なので上がる可能性は高いが、とりあえず花火には行けそうだ。  目を覚ました雪夜は、朝のやり取りはほとんど覚えていないようだった。  ただ、朝はあんなに「デートがしたかった」と泣いていたのに、昼に目を覚ました時には、デートのことには一言も触れなかった。  ……まるで、最初からそんな予定はなかったかのように……  それが余計に夏樹の胸に刺さった。  でも、雪夜がせっかく花火に気持ちを切り替えてるのに水を差したくなくて、夏樹もそのことには触れなかった。 *** 「雪夜おいで、髪寝ぐせついてる」  バタバタと準備をしている雪夜を呼びとめる。 「え!!ぅわ……ほんとだ……」 「髪伸びたねぇ」  雪夜の寝ぐせを直すのは毎朝の日課なので、雪夜も大人しく夏樹の前に来る。  雪夜は自分の見た目にあまり頓着(とんちゃく)しないので、自分で準備をすると服装や髪型が結構いい加減になってしまう。素材がいいのにもったいない。  こだわりがあるなら口出しはしないが、特にこだわりがあるわけではないらしいので、同棲してからはほとんど夏樹の好みでいろいろとコーディネートしている。 「あ~……そうですね。たぶん、そろそろ声がかかると思うんですけど……鬱陶(うっとう)しいですか?」 「いや?そんなことはないよ。ただ、伸びたな~って思っただけ。相川君の知り合いの練習台になってるんだっけ?」 「はい。俺、美容院とか行くの苦手だから……お店の定休日にこっそりと切ってもらう代わりに練習台にって」 「たまにおもしろい髪型になるよね」  雪夜は美容院に行くのが苦手なせいで、それまで髪はほとんど自分で切っていたらしい。  ガタガタに切られた髪を見かねた相川が知り合いの美容師に話をしてくれて、定休日や閉店後に切る代わりとして、練習台やカットモデルをしているらしい。 「あはは……なんか、俺の髪質が気に入ってくれてるらしくて、変に弄らない方がいいからってあんまり色は変えないんですけど、一回だけレインボーにされたことありますよ。まぁ、しばらくしたら直してくれたんですけど」 「レインボー!?何それ、見たかったな~」 「たぶん、相川が写真持ってますよ。面白がっていっぱい撮ってたから」 「今日見せてもらおうかな。はい、できた」 「ありがとうございます!」 ***

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