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どんなに暗い夜だって… 5-13(夏樹)

――え、雪夜熱があったんですか!?」 「うん……薬飲んで昼まで寝てたから、今は微熱まで下がってるけどね――」 ***  夕方、佐々木たちと合流して、花火がよく見えるという穴場までやってきた。  相川が見つけたという穴場は、少し高台にある公園で、すっかり(さび)れていて普段はあまり人がこないところだった。  ただ、公園からは周りの木が邪魔になってあまりキレイに見えそうにない。  一体どこが穴場なのかと戸惑う夏樹たちに、 「まぁ、いいからついてきて」  と相川が笑った。  半信半疑で相川の後をついていくと公園の奥の獣道のような道を歩いて行く。  細い道を抜けると、今はもう使われていないらしい、よくわからない小さな建物があった。  周りは草がいっぱいで虫だらけだが、さすがに場所を指定しただけあって、相川が虫よけや虫刺されの薬など、いろいろと用意していた。  幸い、花火がよく見えるという場所は少し(ひら)けていて、下がコンクリートで整備されていたので、そこにピクニックシートを敷いて、みんなで弁当を食べた。(弁当は夏樹と佐々木の手作りだ。)  雪夜は遠足に行ったことがないので、こうやって外でみんなで食べるのも初めてらしく、ずっと「おいしいね!楽しいね!」と嬉しそうだった。  そんな雪夜に『』の三人がそれぞれ「うんうん、これも食べな?いっぱい食べて大きくなるんだよ?」と世話を焼きまくる。  今日は一応、ダブルデートということらしいが、相川も佐々木も雪夜にばかり構っているので、ダブルデートというよりはもうただの雪夜の取り合いだ。  いつもと一緒じゃねぇか……まぁ、こうなる気はしてたけど――…… ***  食後、相川と雪夜がトンボとじゃれているのを、少し離れた場所で佐々木と眺めながら今朝のことを話した。 「――あらら……じゃあ、午前中の初デートは延期ですか」 「あ~うん……まぁね……」 「……何かあったんですか?」 「ん?いや……ただの自己嫌悪」  自嘲気味に笑う夏樹をじっと見ていた佐々木が 「あ、もしかしてデートのことですか?雪夜、何か勘違いしてたでしょ?」  と、言い当ててきた。 「……気付いてたの?」 「何となく。だって、デートがご褒美ってあきらかにおかしいでしょ」 「だよなぁ~……」  そうだよな……普通そこですぐに気づくよな…… 「でもまぁ……今までの事情を考えたら、なかなかデートができなかったのも仕方ないと思いますけど……」  普段は夏樹に厳しい佐々木が、珍しくフォローするような言葉をかけてくる。  佐々木がフォローしたくなるくらい、夏樹が落ち込んで見えたらしい。 「一応ね……同棲しようって話した時に、もっと二人で出かけたいっていうことも話したつもりだったんだけど……たぶん雪夜……あの後しばらく寝込んだから、そこら辺のこと完全に抜けてたんだろうな……あはは……」  遠い目をして笑う夏樹に、佐々木が同情の目を向けてきた。 「まぁ、あり得ますね。っていうか、覚えてるわけないでしょ……で、どうするんですか?」 「ん?もちろん、これからはいっぱいデートするよ?」 「それは良かった。でも、あいつお金のこと気にするからそこら辺は上手いことかわしてくださいね」 「そうなんだよね~……デート費用なんて雪夜の笑顔でプラマイゼロどころかお釣りがくるんだけどなぁ~……お前らはどうしてんの?それぞれで出してる?」 「は!?なんで俺ら!?」  急に自分たちの話題になって佐々木が動揺する。 「だって相川と付き合ってるんだろ?」 「そ……そうだけど……あ~まぁ、俺らは幼馴染だし、お互い学生だから……それぞれで出したり、たまにあいつが……でもあいつの場合、お礼は身体で……とか言い出してウザいんで、最近はあいつが払う前に自分の分は自分で払うようにしてますけどね!?」 「あぁ、その手があったか!」 「おいこら!!あのバカを参考にすんなっ!!」 「え、なんで?」 「あんたらは別にそんなことしなくても……ヤれるだろ?」 「お前らはヤってないの?」 「ヤっ……てはいるけど……」  佐々木が何か言いかけたが、相川と雪夜がこっちに近づいて来ているのをみて、黙った。  夏樹は「後でよければ話聞くけど?」と佐々木にだけ聞こえるトーンで言うと、雪夜に笑顔で手を振った。  そんな夏樹に、佐々木はちょっと食い気味に「いや、忘れていい」と短く言い捨てた。 *** 「夏樹さぁ~ん!!みてみて!!トンボ!!」  雪夜が満面の笑みでトンボを指に挟んで見せてきた。 「俺初めて触ったぁ~!!相川すごいねぇ!なんで捕まえられるの!?」 「ふふん。子どもの頃しょっちゅう追いかけまわしてたからね~。な、(あきら)?」 「あ~そうだな。お前、夏になると虫取り網と虫かごが必須アイテムだったよな」 「典型的な夏の子どもスタイルだな……」  虫取り網と虫かごを持って鼻を垂らしているちびっ子相川を想像して笑ってしまった。 「夏樹さんは触ったことありますか?」  雪夜がトンボを夏樹の前に突き出してくる。 「あるよ?子どもの頃にね。それよりもっと大きいやつ」 「え、これより!?」 「うん、トンボも種類多いからね」 「そうなんだ……へぇ~……」  マジマジとトンボを眺めている雪夜の頭をポンポンと撫でる。 「好きなだけ観察したら、そっと放してやるんだよ?ずっとそこ持ってたら羽がダメになっちゃうから」 「え!?ごごごめんね、トンボさん!!」  慌てて雪夜が手を放した。 「あ、良かった。飛んでる!」  雪夜が元気に飛び去ったトンボを見てホッとした顔をする。  あ~もぅ、うちの子可愛い!!トンボさんって!!トンボさんって!!! 「ちょっとそこの変態。雪夜が可愛いからって鼻血出すなよ?」  悶える夏樹に佐々木がティッシュを渡して来た。 「まだ出てないし!!」 「まだって……おいおい……」  佐々木が呆れたような顔をする。  おい、そんな顔してるけど、お前らも大概だからな!? ***

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