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どんなに暗い夜だって… 5-14(夏樹)
日が落ちてからは、暗闇が苦手な雪夜のために、ピクニックシートの周りに小さいランタン型のライトをいくつか置いて、お菓子を食べながら取り留めのない話をして盛り上がった。
雪夜が、相川は飲み会でも盛り上げ役だと言っていたが確かに話題を振るのがうまい。
佐々木も聞き上手で話を引き出すのがうまい。
雪夜は、そんな二人にのせられて、夏樹もまだ聞いたことのない話をたくさんしてくれた。
夏樹も話を聞き出すのは得意な方だが、雪夜は二人っきりだと緊張してなかなか話してくれないことも多いので今回は相川たちに感謝だ……
***
「お、そろそろ時間じゃない?」
相川が時計を見る。
「え!どこどこ!?」
雪夜がキョロキョロと空を見上げた瞬間、夜空に大輪の花が咲いた。
雪夜は雷も苦手なので花火の音を怖がらないか少し心配だったが、生まれて初めて間近に見る花火に圧倒され、周囲の音など耳に入ってきていないようだった。
「お~綺麗だな」
「うん、たしかによく見えるな」
相川と佐々木も隣で感嘆の声をあげる。
夏樹はと言うと……間近で花火を見るのは久しぶりだったが、花火よりも、花火に照らされた雪夜の横顔に見惚れていた。
次々にあがる花火に、雪夜が瞬きも声をあげるのも忘れて魅入っていた。
***
花火の途中に数回休憩が入る。会場では、花火の説明アナウンスや仕掛け花火などで盛り上がっているのだろうが、ここからは残念ながらそれは見えない。
何回目かの休憩の時に、相川が写真を撮ろうと言い出した。
「せっかくだから、みんなで写真撮ろう!ほらほら入って!次のが上がったら撮るから」
「お前大丈夫なのか~?花火って結構タイミング難しいぞ?」
佐々木が心配した通り、相川は絶妙にタイミングを逃す。
焦れた佐々木が代わって撮ると、一発で綺麗に花火が入った。
雪夜はそんな二人のじゃれあいも楽しそうに眺めていた。
「雪夜、大丈夫?」
「え?」
夏樹は、雪夜が花火が始まってから一言も発していないのが少し気になっていた。
もしかして、具合悪いのかな?
楽しい雰囲気を壊さないように我慢しているのかもしれないと思い、相川たちには聞こえないように、こっそり雪夜に話しかける。
心配する夏樹に、雪夜がふわっと微笑んだ。
「ねぇ、夏樹さん。花火ってこんなに大きくて綺麗だったんですね!俺今まで写真とかテレビでしか見たことなかったから……なんか……なんて言ったらいいのかわかんないけど……すごい感動してて……胸がいっぱいで心臓止まりそう……」
興奮してほんのり赤くなった頬と、潤んだ瞳で微笑む雪夜がたまらなく愛おしかった。
夏樹が抱きしめようとした瞬間、
「雪ちゃあああああああああああん!!!!まだしんじゃだめだああああああ!!!」
「これくらいで大袈裟なんだよ!もっと凄いのいっぱいあるんだから!!いっぱい花火見に行こうな!」
いつから話しを聞いていたのか、相川と佐々木が飛んできて、夏樹を押しのけ雪夜に抱きついた。
おい……俺のこの手をどうしてくれる……っ!?
完全に出遅れた夏樹は、やり場のない手をニギニギしながら三人を見てため息をついた。
夏樹にとって、吉田が自分の人生を変えてくれたかけがえのない友人であるように、雪夜にとってのそれはきっとこの二人なんだろう。
友情には勝てないな……
相川と佐々木にもみくちゃにされながら笑っている雪夜を見て、連れてきてよかったと心から思った。多少熱が心配だけどね……
「ほらほら、もうそろそろラストだぞ」
時計を見て、じゃれあっている三人に声をかけると、さりげなく雪夜を自分の腕の中に奪い取る。
ボサボサになった雪夜の髪を撫でつけながら、ひと際派手に打ちあがる花火を眺めた。
初めて見る花火……か。
俺が初めて見たのは……いつだったんだろうな……
幼過ぎてはっきり覚えていないが、両親と一緒にお祭りに行ったのはうっすら覚えている。
俺も……雪夜みたいに花火に感動したのかな……いや、花火を見た感動よりも、両親と出かけられたことが嬉しかったんだろうな。だって、両親との記憶の中に花火は全然出てこない。
だから、夏樹にとっても生涯で一番感動した花火は、今この瞬間なんだと思う。
愛する人が生まれて初めて間近に見る花火。それを一緒に見上げられることが、同じ景色を見ていられることが、ただただ嬉しい。
雪夜と一緒に、こういう瞬間をもっと共有していきたい……
「雪夜、愛してるよ」
花火に魅入る雪夜の耳元で囁く。
「……へ!?」
一瞬遅れて、目を見開いた雪夜が夏樹を見上げた。
「ほら、よそ見してると見逃すよ?」
「え!?あ……ぇえ!?」
花火と夏樹のどっちを見ようか迷ってキョロキョロする雪夜に苦笑しながら、両手で頭を挟み込み花火の方に固定した。
「もうすぐ終わっちゃうから、花火みてて」
「え、でもあの…………っうわ~スゴイ!!!今の見ました!?キラキラって!!サーッて!!」
「うん、キレイだったね」
興奮しすぎて語彙 が完全に小学生レベルになっているけれど、夜空を指差してぴょんぴょん跳ねている雪夜が可愛くてこっちまで嬉しくなる。
「……あれ……もう終わりですか?」
「そうだね、今のがラストっぽいね」
「そうなんだ…………終わっちゃった――……」
***
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