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どんなに暗い夜だって… 5-16(夏樹)

「ふぅ……」  帰宅した雪夜は、クッションを抱きしめながらソファーに座り込み、そのまま倒れこんだ。  夏樹は荷物を置くと、冷たい水を入れたコップを雪夜の頬にひっつけた。 「ん……冷た~い」  普段なら飛び起きるのだが、反応が鈍い。 「お疲れさま」  のそのそと起き上がってコップを受け取った雪夜の頭をポンポンと撫でる。 「どうだった?初めての花火」 「めちゃくちゃ楽しかったです!!!帰りはちょっと怖かったけど……でも……でも、すごく楽しかった!!夏樹さんがいて、佐々木がいて、相川がいて……外でご飯食べたのも楽しかったし、花火も、みんなで一緒に見られたのが嬉しかったです!!!」  興奮冷めやらぬまま瞳を輝かせて話す雪夜に、夏樹の表情も緩む。 「それは良かった」 「夏樹さん、今日はワガママきいてくれてありがとうございました」 「ん?」  夏樹も水を飲みながら雪夜を見る。 「みんなで花火に行きたいって言ったことや、熱があったのに連れて行ってくれたことや、俺が……暗いのダメだからみんなでいろいろ気を使ってくれてたことや……なんかいろいろ……みんなにスゴイ迷惑かけてるってわかってたけど……でも、嬉しかったです。俺まだドキドキしてるし……」 「あんなのワガママでも迷惑でもないよ。苦手なものは誰にでもあるし、それを周りがカバーするのは当たり前のことでしょ。誰かと一緒に楽しむっていうのは、そういうことで……って、雪夜?それ、息できてる?」  抱え込んだクッションに顔を埋めた雪夜から、規則的な寝息が聞こえてきた。  そりゃそうだよな。朝熱出してたのに、あんなにはしゃいだら……  ベッドに運んで、熱を測る。 「あ~……やっぱり上がってるな~……」  帰りに抱っこした時に、雪夜の身体が熱くなっていることには気づいていた。  でも、もう帰るだけだし雪夜は自分で気づいていないようだったので、あえて黙っていたのだ。    ちょっと無理しちゃったし、この熱は長引くかもな…… ***  そのまま寝かせようかと思ったが、熱と暑さで汗だくだったので、濡れタオルで身体を拭いて服を着替えさせ、額に冷やしたタオルを乗せた。 「ん~……なつ……みて……きれー……」  熱でうなされているのかと思ったら、夢の中でまだ花火を見ているらしい。  眠りながらへにゃっと笑う雪夜につられて口元が緩む。 「迷惑じゃないんだよ……みんな、雪夜のことが大好きなんだ。雪夜が喜んでくれたら、それでいいんだよ……」  夏樹はそっと雪夜の頬に口付けて、指で口唇を優しくなぞった―― ***

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