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どんなに暗い夜だって… 5.5-1(雪夜)

《どんなに暗い夜だって……おまけ ~リベンジデート!~》 「ちょっと出かけようか」  朝起きると、夏樹さんがそう言った。  初めての花火と初めてのダブルデートから一週間。  あの後、今度は花火での興奮からまた熱を出して2日間寝込んだ。  夏休みに入ってから始めた短期バイトや暑さからの疲れのせいもあるのだろうと言われた……らしい。  熱のせいで雪夜は覚えていない。 ***  朝食を食べ終わってテレビを見ていると、もう夏樹が着替えていた。 「え、今日って特売ですか?」 「ん?なんで?」 「いや……だってもう着替えてるから……まだ早くないですか?」 「あぁ……うん。今日はいつもと違う所行くから。そろそろ雪夜も着替えてね」 「あ、はい」  てっきり、いつもの買い出しに行くのだと思っていた。  特売なら朝一を狙って行くけれど、普通の買い出しだと昼過ぎに行くことが多いので、それまでゴロゴロするつもりだった雪夜は、大慌てで準備をした。 ***  いつも出掛ける時には行先を告げてくれるのだが、今日は何回聞いてもはぐらかされた。  言いたくないのかな……なんでだろう……でも、夏樹さんから誘ってくれたんだから、俺を連れて行きたくないってわけじゃないよね?  夏樹は、ここ数日、仕事が忙しかったらしく、いつもよりも帰りが遅かった。  帰って来てからも、遅くまで持ち帰った仕事をしていて、いつ寝ているのかもわからなかった。  だから、今週末は家でのんびりして欲しいと思ってたんだけどな…… ***  夏樹と他愛のない話をしながら歩く。  さすがに付き合ってからもうすぐ一年になるので、夏樹と出歩く時の周囲の反応にはだいぶ慣れた。  でも、一緒にいる雪夜を見た時の周りの安堵と嘲笑(ちょうしょう)には……未だに慣れない……  どうせ……俺じゃ不釣り合いだよっ!!!そんなの、俺が一番わかってるっ!!!  男だし……見た目も中身も子どもだし……平凡だし……男だし…… 「雪夜、どうしたの?具合悪い?」 「……えっ!?あ、いや、何でもないです!大丈夫です!」  気が付くと、夏樹が心配そうな顔で雪夜の顔を覗き込んでいた。  雪夜は勝手に拗ねていただけなのだが、具合が悪くて黙っているのかと勘違いしたらしい。  夏樹さんはホントに優しいな……っていうか、夏樹さんに心配かけてどうすんだっ! 「疲れた?ちょっと休憩しようか?」 「いやいや、大丈夫ですよ!!ちょっと、考え事してただけで……俺よりも……夏樹さんの方が疲れてるんじゃないんですか?」 「ん?俺?」 「ここ数日、仕事忙しかったみたいだし……あんまり寝てないみたいだから……」 「あぁ……心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。睡眠時間は短くても雪夜がいたから熟睡できたし」  夏樹が雪夜の頭を撫でながら微笑む。  熟睡って……それは俺のセリフだし…… 「むしろ、俺のせいで熟睡できなかったんじゃ……絶対仕事の邪魔してましたよね俺……」  同棲を始めてから一緒に寝るのが当たり前になっていたので、一人でベッドに入ってもなかなか眠ることができず、仕事をしている夏樹の隣で本を読んだりゲームをしたりして待っていた……待つつもりだった。 でも、夏樹の傍にいるだけで安心してしまい、結局いつも先に眠ってしまっていたのだ。 毎回朝になるとベッドで目覚めていたので、きっと夏樹が運んでくれていたのだろう。 「……同棲を始めた頃、雪夜が不安定だったでしょ?」 「え、あ、はい……」 「うん、その間ってね、雪夜が離れなくてほとんど抱っこしたまま一日過ごしてた時もあったんだよね」 「……え……あ、そういえばそんなこと……」  自分では記憶にないが、不安定だった時はめちゃくちゃ幼児化していたらしい…… 「あの……あの……ほんっっとーーーに、その節は……大変ご迷惑をおかけしてしまい……」  ここが外じゃなかったら土下座したい気分です…… 「謝らなくていいんだってば。俺が好きでやってただけだから。だからね、ここ数日はその時のことを思い出して嬉しかったんだよ。まぁ……どうせひっついてくれるんなら、もっと密着してくれた方が嬉しいんだけどね」 「みっ……!?いや、俺は近くにいるだけで十分ですっ!!」 「つれないなぁ~……寝惚けてる時はあんなに素直なのにな~……」 「え!?何ですかそれ!?ちょっと……夏樹さん!?」  夏樹が、聞こえないフリをしてどんどん歩いていく。  寝惚けた時!?俺また変なこと言ったのかな!?あ~もぅ!!気になるぅうううううう!!!   ***

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