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どんなに暗い夜だって… 5.5-2(雪夜)
「雪夜、着いたよ」
「……ぁ、え!?」
途中からまたいろんなことを一人で考え込んでいたので、いつ目的地に到着したのか気づかなかった。
夏樹に言われて顔をあげると、目の前には壁一面の大きな水槽があった。
「……え?ここって……」
「水族館だよ」
「え……ぇえええええ!?」
思わずキョロキョロと周りを見渡す。
大きな水槽と広い空間。海のような青い壁には魚の絵が描かれていて、天井には大きな魚の模型が釣り下がっていた。
「わぁ……」
いろいろと驚きすぎて、それしか声に出来なかった。
目に見えるもの全てが新鮮で、気が付いたら口を開けたまま上を向いてグルグルと回っていたので、目が回ってふらついた。
「おっと……大丈夫?とりあえず、落ち着いて。模型も魚も逃げないから止まってゆっくり見たら?」
転びかけた雪夜を受け止めながら、夏樹が笑った。
「あ、はい……え、でも夏樹さんは?」
「ん?傍にいるよ?」
「いや、夏樹さんが何か用事があって来たんじゃ……」
今日は夏樹の用事に付き合って欲しいと言われたんだから、俺がここで勝手にはしゃいじゃダメだよね……
「あぁ、俺の用事は雪夜とここに来ることだよ」
「へ?」
「雪夜と一緒にここに来たかったんだ。時間はたっぷりあるから、じっくり見て回ろうか」
「……いいの!?」
「うん、そのつもりで早く来たんだよ」
ん?夏樹さんの用事はここに俺と来ること?何のために?なんかよくわかんないけど……でも……でも……見ていいって言うなら見るぅうううう!!!!!
「わぁ~い!!じゃぁ、じゃぁ……えっと……お魚見てきていいですか!?」
その場でぐるっと回って周囲を見回し、さっきから気になっている大きな水槽をピシっと指差した。
「いいよ。見ておいで」
「行ってきます!!」
大きな水槽に近づくと、何だか自分も水の中にいるような気分になった。
「このすいそうは、うみのおさかながいます……」
隣で子どもが魚名板を読んでいた。
雪夜も横から魚名板を見る。魚名板には、水槽に入っている魚の名前や写真、生態などの解説が書かれていた。
へぇ~……海の中を再現してるんだぁ~……
***
「マグロ?マグロもいるの?ねぇ、マグロってどれですか?」
魚名板と水槽を交互に見ながら書かれている魚を探していた雪夜は、後ろに手を伸ばして服を引っ張った。
「マグロはあれだよ」
「へぇ~……って、え!?…………誰っ!?」
答えてくれた声が聞きおぼえのない声だということに気づいて振り返ると、全然知らない人がいた。
さっきから後ろに誰かいる気配は感じていたのだが、てっきり夏樹だろうと思っていたので気にしていなかった……
え、俺、今この人に話しかけちゃったの!?夏樹さんは!?
急いで夏樹の姿を探すが、なぜか目の前に男が迫ってきて視界を塞がれる。
な……なに?俺が間違えて話しかけたから怒ってるのかな?あ、俺まだ謝ってなかった?
「あの……すみませ……」
「きみ一人?可愛いね。良かったら俺と回らない?俺ここ何回も来てるから詳しいよ?」
「は?」
何言ってんだこの人?
ネットリした口調で舐めまわすように雪夜を見るその男が、やけにニヤニヤしながら迫って来る。
いやだ……気持ち悪い――……
その男の目に見覚えがあった。
この目……あいつらと同じ目だ……
咄嗟に鞄に手を伸ばしたが、大学入学当初に噂になるくらい鳴らしたはずの防犯ブザーは、隣人トラブルの時に壊されて以来、外していた。
確か予備があったはずだが、あれ以来一人で出歩くことがほぼないので、段ボールに入れたままだった。
「あ……の……ま、間に合ってます!!」
落ち着け!周りには人がいっぱいいるんだから、何かあれば大きな声を出せば大丈夫!!
自分に言い聞かせて、必死に声を絞り出した――……
***
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