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どんなに暗い夜だって… 5.5-3(雪夜)
久しぶりの感覚に身体が委縮して動けなかった……
かろうじて動く瞳を泳がせて逃げ道を探そうとするが、そんな雪夜を嘲笑いながら男が手を伸ばしてきた。
男が雪夜に触ろうとした瞬間、男の身体が後ろに引っ張られるように遠ざかり、雪夜は別の誰かに腕を掴まれ引っ張られたかと思うと、ぎゅっと抱きすくめられた。
「ぅわっ!?」
「はい、お待たせっ!!そろそろ次のとこ見に行く?」
一瞬の出来事に何が何やらわからずパニクっていると、耳元で少し焦り気味の夏樹の声がした。
「夏樹さん!」
夏樹に背後から抱きすくめられているのだとわかって、驚くと同時にほっとした。
背中に感じる夏樹の温もりに安堵し、思わず自分の腹部に回された夏樹の腕をぎゅっと掴んだ。
夏樹は雪夜の耳の後ろに軽くキスをすると、ゆっくりと前を見た。
「そちらは……お友達かな?」
顔は笑っているけれど、ちょっと声のトーンがいつもよりも低い。
急に後ろに引っ張られて軽くよろめいた男が、文句を言うように舌打ちをして顔をあげ、夏樹を見て固まった。
「あ、あのね、俺が間違えて話しかけちゃってね……」
「あ~……えっと……良かった、連れがいたんだね~!一人だとほら、ね?危ないから!……じゃぁえっと……俺はこの辺で~……あははは……はは……」
男は目を泳がせながらよくわからないことを言うと、逃げるように去っていった。
「え……行っちゃった……なんだったんだろう?」
首を傾げる雪夜の肩に、夏樹が顔を埋めてきた。
「はぁ~……ごめん……迷子がいたからスタッフに預けに行ってたんだけど……全くもう……ちょっと目を離したらコレだ……」
「え、迷子!?大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だよ。こういうところじゃ迷子はよくあるからね。館内放送してくれるからすぐに親が来るよ」
夏樹が雪夜を安心させるように優しく笑った。
「そか……良かった」
そうだよね、ここは山の中じゃないし……
「で?何を間違えたの?」
「あ、あの……夏樹さんだと思って話しかけたら……あの人でした……」
「俺と間違えたんだ?え、今のやつと俺って似てるの!?」
夏樹が若干ショックを受けた顔をする。
「全然似てませんよっ!!そうじゃなくて……夏樹さんが後ろにいると思い込んでたから……」
「あぁ……ふっ……そぅ……ははっ……なるほどね」
「もぉ~!そんなに笑わなくてもいいじゃないですかぁ~!!めちゃくちゃ恥ずかしかったんですよっ!?どこか行くなら……言ってくださいよぉ……」
間違えたことが恥ずかしくて、何より、その後のあの男の目が怖かった。
でも、それを言えば夏樹さんに心配をかけちゃうから……
そうは思っても、やはり不安だったせいかちょっと非難がましい言い方をしてしまった。
「うん、ごめん。……一応傍を離れる時に声はかけたんだけどね……雪夜、魚に夢中だったから聞こえてなかったんだね」
「えっ!?」
……そっか……ちゃんと声かけてくれてたのか……そうだよね、夏樹さんが黙って行くわけない……
「あの……ごめんなさぃ……」
「ん?いや、雪夜が夢中になったら周りが見えなくなるのはわかってるのに、ちゃんと聞いてるか確認しなかった俺が悪いんだよ……ごめんね」
夏樹はそういうと、夏樹の腕を掴んでいた雪夜の手を優しくポンポンと撫でた。
***
ふと気が付くと、何やら周囲がざわついていた。
なんだ?何かあったのかな……
よく見ると、主に女性の視線がこちらに集まっていた。
あぁ、夏樹さんを見てるのか……
夏樹さんはどこに行っても目立つなぁ~……
その時、水槽のガラスに映っている自分の姿が目に入った。
……違うっ!!!!俺たちのこの体勢だっ!!!
「なななつきさんっ!!あの、近いっ近いですっ!!」
さっきから雪夜に抱き着いたままの夏樹に、声を潜 めて訴 えかけた。
同棲してから、家にいる時はほとんどこの体勢なので、背後から夏樹に抱きしめられることに慣れすぎていて外だということを忘れていた。
もちろん、雪夜も夏樹とひっつくのは好きだし、嬉しい。
でも、さすがに外にいる時にこれは……ただでさえ目立つのに!!!!
「ん~?近い?」
「ここ、外っ!!!人が見てるっ!!」
夏樹の腕を外そうと試みるが、普段ならすぐに外してくれる夏樹が、余計にガッチリ抱きしめてきた。
「別に見られてもいいよ。さっきみたいなのが寄ってきたら鬱陶 しいし。こうしてたら変なのが寄ってこないでしょ」
「……夏樹さん……なんか機嫌悪い?」
雪夜を抱きしめる腕が、いつもよりも強張っているように感じる。
「ちょっとね……でもこうしてれば大丈夫……さ、次行こうか!」
にこっと笑った夏樹が腰に手を回したまま歩き始める。
やっぱり機嫌悪いんだっ!?なんで……って、
「え、次?」
「そう、次。水槽はここだけじゃないよ。いくつかエリアがあってね……とりあえず、行ってみようか」
「はいっ!」
この大きな水槽の中に、こんなにいっぱいいろんなお魚が入っているのに、まだ他にも水槽があるなんてっ!!水族館ってスゴイなっっ!!!
雪夜は、他にも水槽があるということに興味を持っていかれて、夏樹との距離感や周りの目など一瞬でどうでもよくなってしまった――……
***
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