125 / 715

どんなに暗い夜だって… 5.5-4(夏樹)

 花火の後、雪夜からデートの話は出なくなった。  こっちがデートの話をしようとしたら、毎回話を逸らしてしまって取り付く島もない。  きっと雪夜は勝手に諦めて、なかったことにしてしまおうとしているのだろう。  執着しないことで自分の気持ちに折り合いをつけてきたのはわかってる。  でも……恋人とデートすることまで諦めさせてたまるかっ!!  俺だってデートを楽しみにしてたんだからっ!!  とはいえ、雪夜が聞く耳を持たないのだから計画の立てようがない。  仕方がないので、夏樹が勝手に計画を立てて、デートという言葉を使わずに誘い出すことにした。  雪夜との初めてのデートに水族館を選んだのは、相川とガイドブックを見ていた時に、水族館のところでやけに盛り上がっていたと佐々木が言っていたからだ。  雪夜が動物が好きなのは知っていたので動物園と迷ったけれど、水族館に入った瞬間の雪夜の顔を見て、やはりこっちにしてよかったと思った。 ***  夏樹も水族館に来るのは久しぶりだ。  雪夜は、最初の大水槽の前だけで2時間近く粘っていた。  他に水槽があることを知らなかったせいもあるかもしれないが、放っておいたらまだ大水槽の前にへばりついていたと思う。  ひとつひとつの水槽に興味津々な雪夜と一緒に、夏樹も初めてじっくりと水族館を回ることができた。  今までにもデートで来たことはあるけれど、女の子と来ると魚の前はほとんど素通りでイルカやアシカ等のショーにしか興味を示さなかったので、連れてきてもあっという間に見終わってしまう。  いっそ移動時間の方が長くなって面倒なので、あまり来なくなっていた。  思っていた以上にいろんな魚がいて面白いな……  魚名板を読みながら、雪夜と一緒に「へぇ~、知らなかったぁ~」と言いあうのが結構楽しい。  雪夜は、魚の模様や泳ぎ方、隠れ方、いろんな所が気になるらしく、じぃ~っと水槽を見ては、ここが面白い、これがスゴイ!と説明してくれる。  夏樹が気にしていなかったような所にも気づくので、聞いていて飽きない。  ただ、ずっとそんな調子なので、なかなか進まない。  子どもが来ると場所を空けるけれど、いなくなるとまた水槽に貼り付いてしまう。  途中でイルカのショーの時間になったので、後でまた見に帰って来れるからと説得して雪夜を無理やり水槽から引きはがした。  最初はしょんぼりしていたが、イルカのショーが始まると近くに座っていた小さい子どもに負けないくらいはしゃいでいた。 「夏樹さんっ!!イルカすごい!!あんなに高い所までジャンプしましたよ!?なんであの子たち一緒にジャンプできるの!?」 「うん、すごいね。あれはね、トレーナーがあそこで合図してるんだよ。ほら、笛吹いてるでしょ?」 「あの人?え……あの人魔法使い!?」  雪夜が真面目な顔で驚く。 「え!?……あ~うん……っふは……っ……そうかもねっ」  魔法使いって……っっっっ!!!  あ~もぅ魔法使いでいいよ……むしろトレーナーは魔法使いであってくれ!  雪夜の反応がいちいち可愛くて、笑いを堪えるのに必死で、早々に説明を諦めた。   ***

ともだちにシェアしよう!