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どんなに暗い夜だって… 5.5-5(夏樹)

「まだイルカ泳いでる!見てきてもいいですか!?」 「いいよ、あんまり近くによると水かけられるから気を付けてね」 「はぁ~い!」  ショーが終わっても、しばらくはイルカがプールで泳いでサービスをしてくれる。  雪夜も、他の子どもたちに交じってプールに近づきイルカを見ていた。  少し離れたところから雪夜を見ていた夏樹は、さっきから数段下のベンチに座っている男子高校生の3人組が気になっていた。3人の視線の先が気に入らない……  そっと近づいて行くと、案の定――…… 「なぁ、あの子可愛いよな」 「あれ男じゃねぇの?胸ねぇし」 「え~?貧乳なだけかもよ?っつーか、男でもあの顔なら俺勃ちそう」 「マジかよ。おれは男だったら萎えるわ~」 「服着たままだったらいいんじゃね?」 「俺あの子だったら男でも抱ける!」  ……男でも抱ける!じゃねぇんだよっ!!このエロガキ共がっっ!!!    その時、イルカがジャンプをして、プールサイドに水しぶきが上がった。  子どもたちと一緒に雪夜もキャーッ!と歓声をあげて笑う。  少し水を被った雪夜がプルプルと頭を振ると、陽の光が雫に反射してキラキラと光った。  ――その姿に一瞬目を奪われた。  見慣れている夏樹がときめくくらいなのだから、もちろん…… 「……いや……俺も男でもいけそう」 「だよな……よし、声かけるか!」  3人組が雪夜に見惚れて余計な勇気を出そうとした。 「チッ……」  夏樹は3人組に聞こえるように舌打ちをすると、3人組が立ち上がる前に雪夜に駆け寄り、タオルを頭に被せた。 「わっぷ、夏樹さん!?」 「ほら、水かけられるよって言ったでしょ?」  雪夜の頭を拭きながら、3人組に殺気の(こも)った視線を投げつけて牽制(けんせい)する。  夏樹の視線に、3人組が慌てて逃げて行った。  やれやれ…… 「夏樹さん、髪ボサボサになりましたぁ~」 「ん?あぁ、そうだね。こっちおいで、髪直そう」  イルカのプールから少し離れた所に座って、雪夜の髪を直すことにした。 ***    雪夜は夏樹と出かけると女性の視線が痛いと言うが、雪夜も大概視線を集めている。  主に男の。  雪夜は童顔女顔で小柄でそこらの女よりよほど可愛いけれども、(そば)で見れば普通に男だとわかる。  ただ、女は男に抱かれて綺麗になるとよくいうように、雪夜も夏樹に抱かれるようになってからどんどん色気が出てきて、何気ない表情や仕草にたまにハッとさせられる時がある。  それは他の男にも伝わるようで、一緒に歩いていると雪夜に向けられる周囲の男の視線があからさまに性的なものになっていることが増えてきた。  困るのは、雪夜がそのことに全然気づいていないということだ。  自分の恋愛対象は同性なのに、自分が同性から性的に見られる可能性はないと思っている。  自分の魅力に気づいていないせいで無防備に色気を垂れ流すから、性質(たち)が悪い。  夏樹の場合は視線の相手がほぼ女なので、大抵が遠巻きに見ているだけで害はないが、雪夜の場合は相手が男なので、直接手を出して来る率が高い。  男の場合は、特に数人でつるむと勢いと力業(ちからわざ)でどうにかなると思っているバカが多いからだ。  雪夜は、最近は大学で防犯ブザーを鳴らすような危険な目にはあっていないので、自分がもう20歳になっておっさんになったからだと思っているようだが、佐々木たちによれば、今でも雪夜がひとりでいるとあわよくばと近寄ろうとするやつらは結構いるらしい。  大学内ではあの二人が主になって、雪夜をひとりにしないように気を配ってガードしてくれているのだ。    休日も、一緒にいる時は夏樹が眼を光らせているので近寄らせないけれども、少し離れるとすぐにさっきの大水槽の前で声をかけてきたやつや、今の3人組のような輩が寄って来る。  実に危なっかしい……  夏樹も佐々木たちも、散々怖い思いをしてきた雪夜をこれ以上怖がらせたくなくて、そっと守っているわけだが……  やっぱりまた防犯ブザーを持つように言っておくか……  もしひとりでいる時にさっきのやつらみたいに多人数で来られたら……どうしようもないからな……   「夏樹さん、どうしたんですか?疲れましたか?……あ、そうか。お腹空きましたか?」  夏樹がさっきの3人組の会話を思い出してイラついていると、雪夜が心配そうに見上げてきた。  あ~くそ、この角度も可愛いなおい……っ!  キスしたい気持ちを押し込めて、微笑みかける。 「いや?大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけ。あぁ、もうお昼だね。お弁当食べる?」  時計を見ると、もう13時を過ぎていた。 「お弁当!?」 「うん、持ってきてるよ」  イルカのプールから離れて、お弁当を食べられる場所を探す。  時間的にお昼ご飯を食べ終わっている人が多いせいか、すぐに座れた。 「いつのまに作ったんですか!?」 「朝食の後。雪夜がテレビ見てボーっとしてる間に」 「え……全然知らなかった……」 「そうだろうね。雪夜、朝弱いからまだ半分寝てたしね」 「ぅ~……」 「どうしたの?」 「お弁当作るところ見たかった……」  雪夜がしょんぼりと呟いた。 「……え、なんで?」 「だって……花火の時に作ってるの見て楽しかったから……」 「あ~……そかそか。ごめんね。じゃあ、今度から作る時には声かけるよ」  花火の時にお弁当を喜んでいたので作ったのだが、まさか作るところが見たかったと言われるとは……そういえば、あの時もお弁当箱に詰めるところをやけに嬉しそうに見ていたっけ…… 「は……あ、いえ、ごめんなさい。気づかなかった俺が悪いんだから、夏樹さんが謝る必要ないですよ。え~と……じゃあ、お弁当食べましょうか!」  はい、と言いかけた雪夜が、ハッとして言葉を濁した。  夏樹は、少し考えながら自分の頬を軽く指で掻くと、雪夜の頬を片手でむにっと挟んだ。 「にゃんでしゅか!?(なんですか!?)」 「俺のお弁当食べたい?」 「ふぁい(はい)」 「今日じゃなくて、また次もその次も……これから先ずっと」 「ふぇ?(へ?)……ふぁの(あの)……」 「食べたくない?」 「……ふぁべふぁいでふ(たべたいです)」 「よし、いい子。じゃ、またお弁当作って出かけようね!さて、お弁当食べよっか」  多少強引だが、こうでもしないとちゃんと言わないからな……  にっこり笑って雪夜の頭を撫でると、お弁当を広げた。  ***

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