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どんなに暗い夜だって… 5.5-6(夏樹)

 お弁当を食べた後は、ショーを見る前にいた所まで戻って、またゆっくりと水槽を見て回った。  結局閉館時間まで粘って、まだ3分の2程しか回れていなかった。 「え!?もうおしまい!?……うわぁああああ!!!まだ見れてないとこがあるぅううううう!!!水族館広すぎるぅうううう!!!」  絶望した顔で叫んだ雪夜に思わず吹き出してしまった。  名残惜しそうに水槽を見ながら夏樹の服を掴んでトボトボと出口に向かう雪夜の顔が今にも泣きそうだった。  水族館のスタッフたちが、そんな雪夜を見てみんな何とも言えない優しい笑顔で見送ってくれた。  絶対、中学生くらいに見られてるんだろうな……  隣にいた夏樹は……笑いを噛み殺すのに必死だった…… *** 「雪夜、水族館また来ようね」  外に出て、周囲から陰になっている場所に引っ張っていくと、半泣き状態の雪夜を抱きしめた。 「え?あの……でも……」 「まだ見てないところいっぱいあるでしょ?」 「いや、全部回れなかったのは俺が……トロかったせいだし……すみません、夏樹さんも俺のせいでまだ見れてないところが……」 「うん、だから、また来ようね。また一緒に来て?」 「……また一緒に?」 「うん、雪夜は俺と来るのは嫌?」 「嫌じゃないですっ!!でも……」 「でも?」 「あの……え……?待って……だって、今日は……あれ?……だって……それだと……デートみた……い……」 「うん、みたいじゃなくて、デートだよ」 「ふぇ……ぇえええええ!!???」  ようやくデートだったと気づいた雪夜の顔が一気に真っ赤になった。 「俺とのデート、楽しくなかった?」 「た、楽しくないわけないじゃないですかっ!!!めちゃくちゃ楽しかったですよっ!!でも、でもデートって……俺……俺、全然気づかなくて……なんか俺一人ではしゃいじゃって……え、ちょっと待ってください……頭が追い付かないっっっ!!!」  雪夜が夏樹から少し離れると、頭を抱えてしゃがみこんだ。  混乱した雪夜は、携帯を取り出すとそのまま電話をかけだした。 「ああああ、佐々木ぃいいいいいい!!!助けてぇえええええ!!!!俺どうしようっ!!!」  ちょぉおおおおっっっと待てっ!!!開口一番にその言葉は止めてっっ!!!  光の速さで雪夜から携帯を取り上げる。 「もしもし夏樹です!今のは気にしなくていいからっ!!」 「おいこら変態っ!!雪夜に何したんだよ!!変なことしたんだったら通報するぞっっ!!」 「違うんだってっ!!!まだ何もしてないしっ!!!じゃなくて、今日は二人で水族館に来てて――……」 「は?水族館?…………あぁ、もしかしてデートですか?」 「そう。まぁ、いろいろあってデートっていうのを黙って連れて来たんだけど、雪夜は今日のがデートだったってことに今気づいて……んで、ちょっとパニクってるだけだからっ!!!」 「はぁ!?今気づいたって…………え、冗談……でしょ?」 「いや、マジで。……俺もまさか気づいてないとは思ってなかったんだけど……まぁ、そんなわけで、大丈夫だから!!変なことはしてないから!!」 「まぁ、それならいいですけど……じゃあ、頑張って下さい」 「ありがとう。お騒がせしましたっ!!」  はぁ~……焦った……  佐々木は雪夜のおかん的な存在になっている上、雪夜のことに関していろいろと情報を貰ったり、相談にのって貰っているので、夏樹もなんだかんだで頭が上がらない。  すぐに誤解が解けて良かった……佐々木を怒らせると、後が怖いからな……  ほっと息を吐いて雪夜を見る。  夏樹に携帯を取られた雪夜は、しゃがみこんで膝を抱えて顔を伏せていた。 「雪夜、大丈夫?ごめんね、携帯取っちゃって」 「……すみません……大丈夫です……ちょっと……自分の鈍感さ加減に呆れてるっていうか……夏樹さんに申し訳ないっていうか……」  わかりやすくへこんでいる。  雪夜はマイナス思考に陥ったらなかなか浮上しない。  さて、どうしようかな…… 「そうだねぇ……せっかくのデートだったのに、まさか気づいてなかったとはね~……」 「ぁぅ……ごめんなさぃ……」 「じゃぁ……キスして」 「……え?キスって、ここで?」 「うん、今。はい、どうぞ」  雪夜の前にしゃがんで、顔を近づける。 「え……ちょ……でも誰かに見られたら……」 「今なら大丈夫だよ。ほら、早く」 「ぅ~……っ」  雪夜が、夏樹の顔を両手で挟むと、ちゅっと軽く口唇を押し付けてきた。  一瞬で口唇を離すと、小首を傾げて、どう?という目で夏樹を見上げる。  くっ……可愛っ……って、いやいやいや、軽すぎるだろっ!  小学生かよっ!!! 「ん~?」  やり直しっ!!  雪夜に微笑むと、無言で自分の口唇を人差し指でトントンと触ってやり直しを要求した。 「えぇ~!?……う~ん……じゃぁ……」  ちょっと考えた雪夜が、口唇を重ねて舌をねじ込んできた。  お?できるじゃないか。  ただ、ねじ込んだはいいが、そこからどうしたらいいのかわからないのか、固まってしまった。  雪夜がパニクって目を開け、視線で助けを求めて来た。  まぁ……そうですよね~……  夏樹は、くくっと喉の奥で笑うと、雪夜の舌を自分の舌で絡め取った―― ***

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