130 / 715

どんなに暗い夜だって… 6-1(雪夜)

***  きっと……  心配しているようなことは何にもない……  それなのに、涙が止まらないのは何でだろう    あの時、あんな一言に動揺してしまったせいで……最悪だ―― *** 「それじゃあ、あれからいっぱいデートしてるんだ?」 「うん!あのね、夏樹さんがいろいろ連れて行ってくれるんだ!それがね、俺が行ってみたいって思ってたところばっかりでね、夏樹さんって……凄くない!?」 「そっか……それは良かったな」  佐々木が苦笑しながら雪夜の頭を撫でた。 「佐々木たちとも遊びに行けたらいいな~って思ってるんだけどね、ただ……その前に……」 「ん?」 「……あ、ちょっとごめん。メールだ。」  話を中断して携帯を見る。  雪夜は、メールの差出人を見て軽くため息を吐いた。 「あ~、ごめん。バイトの時間だ……」 「バイトって、緑川の?」 「うん、ちょっと行ってくる」  佐々木の家は大学から近い。  だからバイトまでの時間潰しに、久しぶりに佐々木の家に来て夏樹とのデートについて惚気(のろけ)まくっていたのだ。 「なぁ、緑川となにかあった?」  靴を履こうとしていた雪夜は、佐々木の言葉に一瞬心臓が口から飛び出そうになった。 「えっ!?なな……なにかって!?」 「ん~……わかんないけど、緑川のところ、行きたくないんだろ?そんな顔してる」 「うそっ!?えっ……いや、あの……そんなことはない……よ?」  雪夜は、慌てて自分の顔をペタペタと触り、はっとなった。  自分でも動揺し過ぎだと思う。  これじゃぁ、肯定してるようなもんじゃないか…… 「今日、一緒に行こうか?俺、暇だし」 「だめっ!!!!」  思わず叫んだ雪夜は、自分の声の大きさに驚いて急いで口を押さえた。 「……雪夜?」 「あ……え~と……ほら、せっかくの休みだし佐々木はゆっくりしなきゃ。ね?俺は大丈夫だよ。それに、緑川先生のところのバイトは、もうちょっとで終わりそうだし」  緑川のことは……できればあまり話したくない……  それに、もう佐々木を緑川のところに連れて行くわけには行かない……  様子のおかしい雪夜に、佐々木が(いぶか)()な顔をしているのは気づいていたが、どう思われようとも佐々木がバイトについてくるのは全力で阻止しなければならないのだ…… 「……わかった。でも、何かあったら絶対に連絡しろよ!?夏樹さんに言いたくなかったら俺らに連絡しろ!」 「っ!?」  佐々木の言葉に思わずハッと顔をあげた。 「お前からの電話なら絶対に出るから。相川も俺も。わかったな?」 「……うん、ありがとう。ごめんね、心配かけて」 「そう思うんなら、俺らにちゃんと話せ。頼れ。それが友達だろ?」  友達……  佐々木の言葉が嬉しくて、泣きそうだった。  うん、友達だから……大切だから……佐々木と相川は巻き込まない……!  大丈夫……もう後数回でバイトは終わる……  何事もなく終わる……はず。 *** 「やぁ、今日は遅かったね」  ノックをすると、待ち構えていたかのように扉が開いて緑川が笑顔で立っていた。 「いつも大学にいるわけじゃないですからね」  緑川に一瞥(いちべつ)をくれると、脇をすり抜けて部屋に入りPCを開く。 「おや、そうなんだ?用事があったなら、今日じゃなくても良かったのに」 「他のバイトがない日と先生がここにいる日が重なる日は少ないですから」 「……今日はなんだか機嫌悪そうだね。可愛い顔が台無しだよ?」 「はぁ~……。先生が余計なことばかり言ってるからですよ。ちなみに、一番余計なのは俺の容姿についてです」 「可愛い顔を可愛いって言って何が悪いんだい?」 「……そりゃどうも」  女扱いされるのはイヤだけど、可愛いと言われるのはキライではない。  夏樹さんや佐々木たちに言われるのは素直に嬉しい。  ただ、それ以外の人間。特にこの緑川に言われると……吐き気がする…… 「やれやれ、僕はどうやら雪夜君に嫌われてしまったらしいね」 「……」  わかりきったことに答えるのも面倒で、黙ってPCを操作した。 「でも、イヤだったらバイト辞めても良かったのに、きみはあの後もずっとここに来てるよね?ということは、ちょっとは僕のことを意識してるってことかな?」 「それはぜっっっっったいないですね」  あんなことをしておいて、よくもまぁそんなことが言えるっ!! 「……そんなに力入れて否定しなくても……」 「バカなこと言ってないで、早く今日の分を片づけますよ!!」 「はいはい、わかりましたよ。お姫様」 「おひっ……!?先生……今度それ言ったら針と糸で口縫いますからね!?」 「おっと、それは痛そうだね。わかった、もう言いません!」  雪夜は、おどけた顔で両手を上に挙げる緑川を睨みつけると、大きなため息を吐いた――…… ***

ともだちにシェアしよう!