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どんなに暗い夜だって… 6-8(雪夜)
「ぅ……ん……?」
「おはよう」
「……え……先生……?」
目を覚ますと、雪夜は見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。
目の前に、どう見ても風呂上りでバスローブ姿の緑川が、タオルで頭を拭きながら立っていた。
「こ……こは?え?何で俺……こんなとこに……」
「覚えてない?恋人の浮気現場を目撃して過呼吸になって倒れたんだよ。雪夜君の家を知ってたら送り届けたんだけど、残念ながら知らないから、とりあえず近くにあったホテルに入ったんだよ」
「ホ……ホテル!?え!?ちょっと待って下さい……あの、先生……俺たちって……何もなかったですよ……ね?」
雪夜は、自分の身体を見下ろした。
一応裸ではないけれど、胸元ははだけて下も下着だけになっている……
……倒れただけでこんな格好してるって……おかしいでしょ?
っていうか、なんで先生風呂上りなの!?
「……え、それも覚えてないの?……お尻に違和感はない?」
「えっ!?」
緑川が意地悪そうに笑う。
嫌な予感がして思わず自分のお尻に手を当てた。
お尻……いや、大丈夫だ。
夏樹さんとした後のような、あの感じは……しない。
ホッとした顔の雪夜を見て、緑川がつまらなそうに口を尖らせた。
「お、わかるんだ?さすがだねぇ…………大丈夫。挿 れてはいないよ。僕は意識のない相手に興奮するような悪趣味な輩とは違うから。やっぱりセックスは相手の反応がないと面白くないからね」
緑川が微妙にひっかかる言い方をした。
「……挿れては……?それ以外には何かしたんですか……?」
「……ん?まぁ、せっかくお気に入りの子が目の前で寝てるんだし?それに、倒れたきみをここまで運んだお礼くらいもらってもいいだろう?」
「なっ……なにしたんですかっ!?」
「……ふ、ご馳走様でした」
緑川が口唇をペロリと舐めて、意味深に笑った。
「っ……!」
何をしたのか聞き出そうとした時、雪夜の携帯が鳴った。
ビクッとして思わず固まる……
え……誰から?
「あぁ、それさっきからずっと鳴ってるよ」
音が止まったところで急いで携帯を見ると、佐々木からの不在着信で履歴がびっしり埋まっていた。
時計を見ると、佐々木との約束の時間からもう1時間も過ぎていた……
あ……どうしよう……
急いで服を着ると、忘れ物がないかチェックする。
え~と……そうだ、ホテルってことは……
「あのっ……とりあえずご迷惑おかけしました!!……これ、置いておきます。足りなかったらすみません。失礼しますっ!!」
「え、お金なんていらないよ!?」
背後に緑川の声を聞きながら、急いで部屋から飛び出した。
無我夢中で人の多い方に走った。
そのうちに見たことのある街並みになったので少し歩調を緩める。
動悸が激しい……心臓の音が頭に響く……
佐々木からの電話はひっきりなしにかかってきていたが……頭の中が真っ白になって完全にパニクっていた雪夜は、出ることが出来なかった。
どうしよう……どうすればいいの……俺……
***
「もしもし!雪夜っ!?大丈夫かっ!?」
「……ぁ、ごめん佐々木……ちょっと具合悪くて……寝てたから気づかなかった……」
「具合悪いって……風邪か?熱は?」
「あ~……そうかも。いや、熱はないよ。でも、ちょっとダルくて……だから今日は行くの止めておく」
「雪夜、待て!!……何があった?何かあっただろっ!?お前おかしいぞ!?」
「……っ……何でもない……大丈夫……もうちょっと寝る。心配かけてごめんね」
「ちょっ雪夜っ!?――」
帰宅した雪夜は、とりあえず佐々木からの電話に出た。
本当は今日、佐々木に会って、緑川のことを相談してみるつもりだった……
でも、あんなことがあった後じゃ……何も言えなかった……
だって……まだ自分の気持ちが整理できてないのに……こんな状態で何をどう話せばいいのかわからない……
震える指で電話を切った雪夜は、シャワーを浴びていつも以上に入念に身体を洗った。
緑川に何をされたんだろう……少なくとも、後ろに挿 れられてはいない。
それは何となくわかる。
でも、自分が倒れたせいだとは言え、運ぶために緑川に触れられた部分があることを思うと……
「……痛っ……っ」
強く擦り過ぎて、気がついたら肌から血がにじんでいた。
泡を流して、鏡の中の自分を見る。
俺……なにやってんだろ……
雪夜はそのまましばらくの間、虚 ろに鏡を見つめていた――……
***
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