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どんなに暗い夜だって… 6-11(雪夜)
「夏樹さん、昨日は遅かったんですか?」
朝起きると、いつものように夏樹が朝ごはんを作ってくれていた。
昨夜は、睡眠薬を飲んで寝たので夏樹がいつ帰って来たのか全然気づかなかった。
というか、帰宅した夏樹と顔を合わせたくなかったので飲んだわけだが……
「ん?う~ん、1時過ぎかな。ごめんね、遅くなっちゃって」
「いえ、久しぶりに会ったんだし……どうでしたか?」
「あぁ、相変わらずだったよ」
「……そうですか。俺、吉田さんに怒られそうですね、いつも夏樹さん独り占めしてるし……」
「何言ってんの。雪夜が独り占めしてくれるなら俺は嬉しいよ?むしろ雪夜を独り占めしすぎって俺が佐々木くんたちに怒られてるくらいだし。だいたい、吉田には嫁がいるからね。俺と会ってない間はあっちも夫婦仲良くやってたみたいだから問題ない」
「……そうですか」
夏樹の口から、昨日の女の人の話は出てこない……
「雪夜は昨日どうだった?」
「え?」
「具合悪かったんでしょ?佐々木君も心配してたよ」
夏樹が雪夜を探るようにじっと見つめてきた。
「あ~……はい、いっぱい寝たんでもう大丈夫です!」
夏樹さんに気づいて欲しい……でも……気づかないで欲しい……
緑川先生のことを相談したい……でも……今更相談しても……仕方ない……
不安を隠して精一杯元気に笑った。
ホントに?と言いながら、夏樹が頬に触れて来る。
大好きな夏樹の手なのに、頬に触れる瞬間緑川のことが一瞬フラッシュバックして身体が強張った――
***
――夕方、雪夜は大学に向かった。
今日は本来なら別のバイト日で、大学のバイトは入っていない。
昨夜緑川に「夕方研究室に行きます」と連絡しておいたのだ。
会いたくはなかったが、どうしても会わなければいけない。
ホテルで何があったのか、事実を聞き出すために……
研究室の扉を開けると、緑川が夕日に染まった窓を眺めていた。
「これは返しておくよ。あのホテルに入ったのは僕が勝手にしたことだからね。きみが払う必要はない」
緑川は、有無を言わせず雪夜の鞄に封筒をねじ込んだ。
「それで、彼氏と話はしたのかい?」
「朝少し……でも、普段通りでした」
せっかく来ているので、片づけをしながら話す。その方が気がまぎれていい。
それに、これを最後にもうここには来ないつもりだから、できる分はやっておきたい。
「ふ~ん、じゃあ、今夜かな?」
「……何嬉しそうな顔してるんですか」
「え?そんなことはないよ?ただ、まぁ……きみがフリーになったら僕が次の彼氏に立候補してもいいよね?」
緑川が嬉しそうに笑った。
「丁重にお断りします!」
「え~?ちゃんと優しく慰めて、薄情なノンケのことなんて忘れさせてあげるよ?」
「俺はあの人以外誰も好きになんかなりませんよ。俺が愛してるのは今までもこれから先も一生あの人だけです」
「あのねぇ……」
「俺は、あの人を信じてますから浮気は心配してませんよ。あの人が何も話さないってことは、話す必要がないことなんだと思います」
緑川から目を逸らし、PCの画面を見つめながら昨日寝る直前まで考えていたことを話す。
そう、浮気は心配していない。あの時も雪夜が気になったのは別のこと……
そして、もう今となっては……
「いや、でも……」
「でももし、俺が捨てられるとしたら、その時は……静かに身を引きます。だって、俺はあの人にこれ以上ないくらい大事にしてもらって愛してもらったから」
***
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