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どんなに暗い夜だって… 6-13(雪夜)
「え?ちょっ待っ……ん゛~~~!!やっ……」
奥歯を噛みしめられないように下顎をグイっと下げられ、緑川の舌が入って来た。
あれ?この感触……俺知ってる……?なんでだ?緑川に舌を入れられたのは初めてのはずなのに……知ってる気がする……なんだか全身がゾワッとして……ただただ気持ち悪くて……
雪夜はあまりの気持ち悪さに、口腔内に侵入してきた緑川の舌を思いっきりガリッと噛んだ。
「っ!?……ホントにきみって子は…………いいね、気が強い子猫を手懐けるのは得意なんだ」
顔を顰めて口唇を離した緑川が、血に染まった舌で口唇を舐めながら笑った。
あ……マズイ……なんか押しちゃいけないスイッチ押した気がする……
そう思った瞬間、緑川が雪夜の頭頂部から後頭部にかけて手を滑らせた。
そしてそのまま髪の毛をガシッと掴んで後ろに引っ張った。
「なっ!?」
髪の毛が緑川の指に絡みついているのか、少しでも動けば髪がブチブチと不穏な音を立てる。
痛っ……っていうか、待って!これハゲるっ!!
真後ろに無理やり引っ張られているので、首も痛い。
緑川は、身動きが取れなくなった雪夜に遠慮なくさらに乱暴なキスをしてきた。
何が恋人になったら甘やかすし大事にするだよっ!!!
めちゃくちゃドSじゃないかっ!!!
夏樹さんもSっ気があるけど、夏樹さんは雪夜が嫌がるようなことや、痛がるようなことは絶対しないっ!!!
雪夜の口の中に緑川の血の味が広がっていく……
それが余計に異物が入っていることを実感させ、吐き気が込み上げてきた。
「やめっ!!!ん゛~~~~っっ!!う゛ッ……オ゛エッ!!」
雪夜が本当に吐きそうなのを察したのか緑川が口唇を離して手を少し緩めた。
急いで顔を横に向けて血混じりの唾液を吐き出す。
今日は朝から緊張して食欲がなかった。
夏樹に悟られないように朝食は無理やり押し込んだが昼は抜いていたせいか、胃の中の物は出そうで出ない。
それが余計にキツイ……只々、吐き気だけが込み上げてくる。
「ゲホゲホッ……オエッ……ぐっ……」
「まったく、情緒がないなぁ……まぁ、吐きたかったら吐いてもいいよ?どうせ胃の中が空っぽになれば吐けなくなるから。その方が後で口使いやすいし」
緑川は爽やかにそう言い放つと、一瞬、普段の人の好い顔からは想像もつかないようなゲスい表情を浮かべた。
え、なにそれ……先生ってマジでヤバい系なんじゃ……
吐けばいい、と言うだけあって、吐き気を催している雪夜を気にもせず緑川は雪夜の身体を弄 ってきた。
雪夜は身体をよじって抵抗しながら、混乱する頭をフル回転させて、さっきから気になっていた違和感の正体を探っていた。
押し倒された時から雪夜はかなりな大声を出しているのに、緑川が焦る様子がないのだ。
なんで?だって大学内だぞ!?大声出されたら普通は焦ってやめ――……
そこでようやく緑川が余裕な理由に気がついた。
ここはこの建物の中でも一番端の部屋だ。
普段からこっちに来るのは緑川のゼミ生か緑川の講義を取っている学生くらいだ。
その上、今は夏休みだから全体的に学生が少ないし、何よりもう時間も遅い……
平常時ならばこの時間帯には警備員が見回りに来るのだが、夏休み中は見回りの時間も回数も違うのか、足音さえ聞こえない……
つまり、雪夜がどれだけ叫ぼうが助けが来るわけがないのだ。
今この研究室は、雪夜にとって最悪の、緑川にとっては最高の条件が揃っていた……
大学内なら緑川も変なことはしてこないだろうと思ったのに……
これは俺の考えの甘さが招いた結果だ……
あまりにマヌケすぎて涙が出て来た。
服の上から弄 っていた緑川の手が、徐々に服の中に侵入しようとしてくる。
いやだ……いやだ……気持ち悪いっっ!!!!
「いやだっ!!助けてっ……夏樹さんっ……!!!!」
叫んでも無駄だとわかっていても、無意識に名前を叫んでいた――……
***
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