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どんなに暗い夜だって… 6-16(雪夜)
「雪夜、歩ける?抱っこしようか?」
「ふぇ!?あああああ歩けます!!大丈夫ですっ!!」
帰り道、雪夜を抱き上げようとする夏樹の申し出を丁重に断って夏樹の服の裾を握った。
この時は、まだこの短時間に起きたことが夢か現実かもわからないくらい混乱していたので、逆に自分でも驚くほど普通に歩けた。
夏樹は少し不満そうだったが、雪夜が自分の足で歩くのを見てとりあえず腰に手を添えるだけにしてくれた。
聞きたいこと、話さなきゃいけないこと、たくさんあり過ぎて何を話せばいいのかわからず黙っていると、まずは夏樹がいろいろと説明してくれた。
「裕也 さんは……あ、さっき俺と話してた人ね。あの人は、俺にとって年の離れた兄みたいな存在のうちの一人で、副業でよく情報収集や調査をしててね、その関係で盗聴も得意なんだ……」
「と……盗聴!?」
「……雪夜、ご褒美デートの話をした日……大学のバイトで何かあったでしょ?あれからずっと様子が変だったのに、俺には何も相談してくれないからさ。佐々木君にも心当たりないか聞いたんだけど、佐々木君も知らないって言ってたから、これはこっそり調べるしかないかなって。で、大学のバイトの時には毎回盗聴器を仕掛けてたんだよね」
そう言うと、夏樹は雪夜の服の襟裏からボタン程の大きさの何かを取って見せてきた。
「これ、裕也さんお手製のボタン型盗聴器。今日もこれのおかげで助けに行けたんだよ」
……じゃあ、夏樹さんは……俺と緑川先生の間に何かあったって、とっくに気づいてたんだ……
ん?ちょっと待って、盗聴器仕掛けてたって、いつの間に!?っていうか、それっていろいろアウトなんじゃ……
「朝、出掛ける前にぺたってね。本当はこんなことしたくなかったんだけど……雪夜から言ってくれないのは、言いたくても言えない理由があるのかもしれないと思ってさ。だって、俺だけじゃなくて佐々木君たちにも言ってないっていうのはさすがにおかしいだろ?」
たしかに、雪夜はたいていのことは佐々木に話している。
だけど、今回は佐々木にも言えなかった……
「もし何か脅されてたりして言えなかった場合、これなら相手に盗聴してることがバレたとしても、心配性で嫉妬深い俺が勝手にしたことで雪夜は盗聴器の存在も知らなかったんだから雪夜は悪くならないだろ?」
「え、じゃあ、俺のためにわざと黙ってつけてたんですか?」
「つけてるって言ったら、雪夜顔に出そうだし」
「ぅ……」
そりゃまぁ……盗聴器しかけてるなんて知らされてたら……絶対挙動不審になっちゃう……
普段は裕也が盗聴してくれていて、何かあったらすぐに助けに入れるように待機してくれていたのだとか。
今日も裕也は緑川の研究室があるA棟のすぐ外で盗聴をしていたらしい。
いつもと違ったのは、夏樹が一緒にいたこと。
夏樹は裕也から、二人のやり取りの様子からこのままだと雪夜が危ないと聞いて、4階の研究室まで駆けつけてきてくれたのだ……
「本当はもっと早く助けに行きたかったんだけど、ギリギリまで裕也さんに止められてて……裕也さんの手を振り切るのにちょっと手間取った」
そう言って見せてきた夏樹の手首には、くっきり手の痕が入っていた。
「あの人、あんな見た目だけど何気に力が強くてめちゃくちゃケンカ強いんだよ。俺もよく相手してもらったけど、勝てたことがないんだ。あれでもあの人40歳超えてるんだよ?化け物だよホント……」
「そ……そうなんですか……」
聞けば聞くほどツッコミどころが満載で、謎が深まるばかりで……もう何に驚けばいいのかわからなかった――……
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