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どんなに暗い夜だって… 6-17(夏樹)

 帰宅後、夏樹はまず雪夜をお風呂に放り込んだ。  本当は一緒に入って緑川の匂いを自分の手で全て洗い流してやりたかった……  でも、今一緒に入ってしまうと激情に駆られて欲望のままに酷く抱き潰してしまいそうで……  一旦冷静になるために夏樹は晩飯を作ることにした。  ただ、昨日のことがあるので、しょっちゅう様子を見に行っては浴室の外から声をかけた。  雪夜から慌てて返事がかえってくる度に、ちょっと安心する。  余計なことを考える暇を与えなければ、少なくとも昨日のように自分を傷つけることはないはずだ。  今のところはまだ大丈夫だが、また前の事件の時みたいに不安定になる可能性もあるので気をつけておかないと……  それなのに…… 「はぁ……」  助けに入った時、感情を抑えきれずに雪夜を怒鳴りつけてしまったことを少し……いや、だいぶ後悔していた。  いくら動揺していたとはいえ、襲われていた恋人に対してあの言い方はないよな……  うん、あれはないわ~……  しかも、雪夜の目の前で緑川に軽く暴力振るっちゃったし……  完全に雪夜(おび)えてた……よな?  ただでさえ怖い思いしてたのに……俺が追い打ちかけてどうするんだよ!?  あ~……くそっ!!  夏樹は小さく舌を鳴らすと、台所で頭を抱えてしゃがみ込んだ。 ***    雪夜が今日大学に行くことは知っていた。  昨夜、雪夜の携帯に入った緑川からのメールを見たから……  知っていたけれど、雪夜がひとりで緑川に会いに行ったことがショックだった。  あれだけ日ごろから何かあれば話して欲しいと言っていたのに……  でも…… 「浮気……か……」  緑川の言葉を思い出した。  まさか……雪夜に昨日のあの場面を見られていたとは……  俺が浮気していたと勘違いしていたのなら……そりゃ余計に言えないよな。  つまり、雪夜が緑川に襲われる羽目になったのは……俺のせい?  雪夜を傷つけたのは結局俺ってことじゃないか……っ!  昨日、誰と会うのかちゃんと話しておけばよかった……いや、今朝でもよかった。  今朝は珍しく雪夜の方から昨日のことについて話題を振ってきた。  その時に話しておけば、少なくとも今日ひとりで緑川に会いに行くことはなかったはずだ。  今にして思えば、あれが雪夜にとっての精一杯のSOSだったのかもしれない……  それなのに、夏樹は雪夜の身体の傷の方が気になっていてそのことに気が回らなかった。  自分の迂闊さに嫌気がさす――……  が……それはそれとして……  いつも予想の斜め上をいってくれる雪夜だが、こういうことがあった時の思考はもうだいたいわかる。  そして、その思考になった時の雪夜がどれだけ行動的になるのかも……    雪夜が浴室から出て来る音がした。  夏樹はゆっくりと顔をあげると、一つ大きく息を吐いた。   *** 「それで、昨日はなんであいつと一緒にいたの?」  夕食後、夏樹はまず一番気になっていたことを聞いた。  そもそも、今まで一度も学外での接触はなかったのに、昨日に限ってあいつと一緒にいたというのが解せない。 「えと……昨日は……バイトが早く終わったから時間つぶしにブラブラしてたら先生に見つかって……先生を振り切ろうとしたんですけど、いろいろあって……そんな時に夏樹さんを見つけて……」 「じゃあ、緑川とは偶然会ったんだ?」  雪夜が若干言葉を濁したのが気になったが、そこはあえてスルーしておく。 「はい……たまたまです」  その偶然が緑川による作為的なものかはわからないが、そこら辺は裕也が聞き出してくれるはずだ。 「そか……あのね、昨日俺が会ってた女の人で赤ちゃんについて話してたんなら、雪夜たちが見たのは吉田の嫁のみっちゃんのことだと思うんだよね」 「吉田さんのお嫁さん?」  雪夜が目を大きく開いてパチパチと瞬きしながら固まった。  うん、その可能性は考えもしなかったって顔だなこれ…… 「そう。この人じゃなかった?」  吉田夫妻の結婚式の時の写真や、昨日撮った写真を見せる。 「あ……そう……ですね」  雪夜が茫然と写真を見つめる。  こんなことなら、もっと早くこの写真見せておけば良かった……  今更そんなことを思っても遅いけれど……  とにかく、この誤解は絶対に解いておかないと!! 「でしょ?で、もちろん赤ちゃんは吉田の子だからね!?実は昨日、昼間みっちゃんから電話があって――……」 ***

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