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どんなに暗い夜だって… 6-18(夏樹)

 吉田の嫁の美優(みゆ)は、吉田とは幼稚園の頃からの幼馴染で、高校時代にはもう付き合っていたので夏樹もよく知っている。  その美優が、珍しく深刻な声で「二人だけで会いたい」と電話をしてきた。  今日は吉田からも会いたいと言われているし、夫婦喧嘩でもしたのかと思っていた夏樹は、例の店先で美優に「赤ちゃんができたの」と言われて、一瞬頬が引きつった。  なぜそれを二人きりで報告されているのかわからなかったからだ。  もちろん、夏樹の子でないことはハッキリしている。  美優とはそういう関係どころか、二人きりで会うこと自体これが初めてだったのだ。  とりあえず話の内容自体はめでたいことなので素直に祝福すると、美優は「ありがとう」と言いながらも微妙な顔をした。 「どうした?」 「(じゅん)ちゃんね、子どもはまだ先でいいよねって言ってたの。だから、今はまだ欲しくないのかもしれない……ねぇ、どう思う?夏樹君、何か聞いてない?」  美優が両手をグッと握りしめて、年齢よりも少し幼く見える顔を強張らせながら見つめて来る。  ちなみに、純ちゃんというのは、吉田のことだ。  あぁ、美優が二人きりで会いたいと言ったのはそういうことか……  夏樹は美優に気づかれないようにそっとため息を吐いた。  両方から連絡が来たものだからよほど切羽詰まっているのかと思い、わざわざ仕事を早く切り上げて来たのに……  美優のことはキライではないが、夏樹の苦手なタイプでもある。  吉田が小さい頃から甘やかしていたため、若干ゆるふわ天然系でズレたところがあるのだ。  ただ、美優は子どもの頃からずっと吉田一筋なところは好感が持てる。  ふわふわした見た目と性格のクセに、吉田のことに関しては絶対に譲らない頑固なところがあるので、高校時代、彼氏の前でさえ夏樹に色目を使ってくるような女が多い中、美優は堂々と「夏樹くんはカッコいいけど、純ちゃんには負けるんだよね~!」と言って、女子から随分と顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。    世間一般の見た目で言えば、吉田はそんなにかっこいい部類には入らないが、内面は優しくて男前で男気のある良い奴だ。  美優はちゃんとそういう吉田の内面を見ていて、長年ブレずに惚れ込んでいる。  最近、それが少し羨ましい。  俺も……雪夜にそれくらい惚れられたい……  吉田と違って、俺は所詮見た目だけだからダメなのかな……いくら取り繕ってみても、努力しても、内面はなかなか変わるものじゃない……  夏樹は、ふっと美優に笑いかけた。 「あぁ、それな。たぶん……前に、みっちゃんがまだ仕事していたいって言ったんだろ?だからあいつもみっちゃんに合わせてそう言ったんだよ。あいつは子ども好きだし、早く子ども欲しいって言ってたから大丈夫。絶対喜ぶよ」 「そうだったの!?……そかぁ……私に気使ってくれてたのか……純ちゃん優しいからなぁ……」  美優がホッとした顔になり、肩の力を抜いた。 「はいはい、ノロケ(おつ)」  っていうか、あいつ避妊してなかったのか?もしかして、計画的な犯行なんじゃ……いや、あの堅物(かたぶつ)がそんなことするわけないか。まぁ、それは夫婦の問題だしもうどうでもいいけど。 「じゃあ、今日純ちゃんに妊娠報告するから……夏樹君も手伝ってね!」 「は?そういうのはほら、二人だけの時に言った方がいいんじゃないのか?」  手伝うという言葉に、嫌な予感を感じ何とか逃げ道を探す。 「だってぇ~……」 「それに、今日はこれから吉田にも呼び出されてんだよ。なんか相談したいことがあるって。だから……」 「あ、それ多分私のことだ。子どもができたのがわかって、ここしばらく純ちゃんに話すか悩んでたから、よそよそしくしちゃってたんだよね。だから、たぶん……」 「あぁ……って、それわかってんなら、なおさら二人で話せよ!!俺を巻き込むな!!」 「そこはほら、親友なんだし!!それに、純ちゃんの驚く顔、見たくない?見たいでしょ?絶対、見たいよね!?ねぇ~、撮影する人が必要なのぉ~~!!おねが~~い!!」 「あ~~~~もぅ!!!」  こういうところが苦手なんだよなぁ~…… ***

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