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どんなに暗い夜だって… 6-19(雪夜)
「っていうわけで、なぜか吉田への妊娠報告サプライズを手伝わされる羽目になって、感激して号泣した吉田につかまって祝いの宴会に付き合わされてたから遅くなったの。何なら、吉田に電話して直接聞いてもらってもいいよ?」
夏樹がその時のことを思い出したのか、心底疲れた顔をして説明してくれた。
「あ……いえいえ、そこまでしなくてもいいです。そうですか、吉田さんの……」
なんだ……ほらね、やっぱりよくあるオチだ……心配することなんて何もない……
何も……
「俺が浮気してると思っちゃった?」
「え!?あの……その……」
夏樹が探るように雪夜を見つめて来る。
雪夜は気まずさから視線を逸らした。
夏樹の目を見ることができない……だって俺、勝手に動揺して……勝手に……
緑川にはっきりと浮気を否定した時の夏樹の言葉を思い出す。
夏樹さんは……あんなに俺のこと想ってくれてるのに……俺は……
「いや、いいんだよ。そりゃ俺が女といてしかも子どもの話してたら……勘違いするのも仕方ないよね」
夏樹が苦笑する。
軽く流そうとしてくれているのかもしれないけど……
夏樹さんは昨日俺と先生に何があったかは知らないはずだ。
一瞬、このまま何もなかったことにしてしまおうかと思った。
でも、嘘を吐いたまま夏樹の傍にいても結局は自分が辛いだけだということはもう嫌というほど身に沁みている。
同じ過ちを繰り返しちゃいけない。
ちゃんと話さないと……
両手を握りしめて、大きく息を吸い込んだ。
「いえ……違うんです。夏樹さんの浮気とかは問題じゃなくて……謝らなきゃいけないのは俺なんです……」
「謝る?なんで雪夜が謝るの?」
「あの……そもそも、俺は会話を全部聞いたわけじゃなかったし……それなのに、俺バカだからあの時は……ちょっと動揺してしまって過呼吸で意識を失ったらしくて……それで、気がついたら先生とホテルに……いて……あの、ごめんなさい……先生とは何もなかったって言いたいんですけど、俺わからなくて……つ……突っ込まれてはないと思うんですけど……気がついた時には服着てなかったから……何かは……されたみたいで……俺……あの……本当にごめんなさい……」
そう……何かあったのは……俺の方だ……
緑川から詳しく聞き出そうとしたのに結局何もわからないままだし……俺なんのために今日大学行ったんだろ……
「俺っ……俺ね、これでも……夏樹さんを幸せにしたかったのっ!……それなのに……俺にはもう何も残ってなくて……ごめんなさぃ……」
胸が締め付けられて全身から血が抜けていくような気がした……指先が冷たい……身体が小刻みに震えて止まらない……俺……どの面下げてここにいるんだろう……
夏樹の顔を見るのが怖くて……ただ謝ることしかできない自分が情けなかった……
***
昨日……子どもが出来たって喜ぶ夏樹さんを見て……ずっと心の奥に押し込めて見えないフリをしていた現実を嫌でも突き付けられた気がした……
俺は、どんなに頑張っても夏樹さんの子どもを産んであげることはできない……
俺自身は、自分がゲイだって気づいた時に、子どもに関しては諦めというか、仕方のないことだから受け入れていた。
そもそも、同性が好きだと気付く前から、俺は女の子が苦手だった。
今でこそ話すくらいなら普通に出来るけど、子どもの頃はなぜかわからないけど女の子が怖くて……近づくことも出来なかった。
だから、俺は子どもが欲しいだなんて思ったことがない……
でも、やっぱり夏樹さんは子どもが欲しいのかなとか……その子が夏樹さんの子なら、俺が身を引くべきだよねとか……
浮気がどうとかよりも、そのことから目を背けていた自分に嫌気がさして……
そんなことを考えているうちに発作が起きた……
だって……夏樹さんはノンケだ。
女の人と結婚すれば、ちゃんと家族を作れる。子どもを作れる……それなのに、あえて俺を選んでくれている……
じゃあ、俺が夏樹さんにできることは?
子ども以外のことで、夏樹さんを幸せにすることだ。
俺を選んで良かったって思って貰えるように、夏樹さんがこの先誰よりも幸せであるように……
でも、今現在俺は……何もない。
お金もない。
家のことだって満足にできない。
えっちもキスも下手だから、ベッドでも夏樹さんを満足させてあげられない。
到底幸せになんて出来てるはずがない。
俺が夏樹さんに捧げられるのは、俺の身体だけ……夏樹さんにしか抱かれてない……夏樹さんしか知らないこの身体だけだったのに……
それなのに……この身体さえ守れなかったら……俺には……もう本当に何も残ってないっ!
ホテルで目を覚ました時、雪夜はそのことに気づいて絶望した。
か弱い女の子じゃないんだから、自分がちゃんと気を付けていれば守れるはずのものだった。
それを俺は……
なんであれくらいで気を失ったりしたんだ……よりにもよって、緑川の前でっ!
いくら後悔しても後の祭りだった。
洗っても洗ってもその事実を消し去ることはできなくて……血が滲むまで強く擦って……もういっそ身体中の皮を剥ぎ取ってしまいたかった……
夏樹を信じきれずに動揺して結果的に裏切ったのは雪夜の方だ……
だから、夏樹に昨日の真相を聞いたら、少しでも疑ってしまったことを謝って……
そして……
***
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