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どんなに暗い夜だって… 6-21(雪夜)

「あのね、雪夜。あいつには何もされてないから大丈夫だよ。さっき裕也(ゆうや)さんから連絡があった。ホテルでも何もしてないって……」 「……ぇ?」  雪夜を抱きしめた夏樹が、雪夜の肩に顔を埋めたままポツリと言った。  何も?……だって先生はあんなに意味深に……それに俺……服だって……   「全部あいつの嘘だ。だから何も気にしなくていいんだよ」 「……っ!?」  全部……嘘……?  夏樹は顔をあげると、衝撃が大きすぎて言葉を失う雪夜の頬を両手で包み込んで言葉を続けた。 「ほら、出ていく理由なんて何もないでしょ?俺と別れる理由も何もない。だいたいあいつに何かされてたとしても、俺はそんな理由で雪夜を捨てるようなことはしない。雪夜は俺がそんなことするような最低男だと思ってたの?」 「そんなことないっ!!」  むしろその逆で……夏樹さんはきっと、いくら役に立たなくても、邪魔になっても、今の俺を放り出すことは出来ないだろうから……だから俺から……出て行こうって…… 「それに、雪夜は一番大事なもの忘れてるよ」 「……一番大事なもの?」  「もう何も残ってないって言ってたけど……雪夜の心は?俺はむしろ、それが一番欲しい」  夏樹が雪夜の顔を覗き込む。 「……心……?」 「身体だけなら、力で無理やりどうにでもできる。でも、心だけはどうにもならない。俺は、雪夜の身も心も欲しい。俺のことだけ考えて、俺のことだけ好きになって、俺のことだけ見て、雪夜の心の中、俺だけでいっぱいになればいい……」  夏樹から真剣な瞳で見つめられて、少し動揺していた。    俺の心……?そんなのもうとっくに…… 「あのね、俺は子どもはいらないんだ。雪夜との子だったら欲しいけど、他の女とヤってまで子どもを作りたいとは思わないよ……俺は雪夜しかいらない。雪夜が一緒にいてくれることが俺にとっての幸せなんだよ」  え、夏樹さん……子どもいらないの?    夏樹の口からハッキリと聞いたのは初めてだったので、少しホッとしている自分がいた。    俺も、夏樹さんが一緒にいてくれたらそれだけでいい……他には何もいらないから…… 「雪夜はいい加減思い知って?俺の愛はでかくて重いんだよ。だけど俺の心を捕らえて、俺を本気で惚れさせたのは雪夜なんだから、俺の愛欲も独占欲も執着心も……逃げないでちゃんと受け止めて?出来る限りでいいから……」  夏樹が少し泣きそうな顔で笑うと雪夜を優しく抱きしめた。  夏樹さんはなんで……俺が不安だったこと、知りたかったこと、聞きたかった言葉……全部わかるんだろう?  もっとちゃんと答えたいのに……夏樹さんに伝えたい想いがあるのに……俺は全然言葉にできなくて…… 「俺の心は……出会った時からずっと夏樹さんでいっぱいですよ……?」  ようやく、この一言を絞り出した。 「ほんと!?」 「本当です……」  さっきまで沈み気味だった夏樹の声が少し明るくなった。  夏樹の指が、雪夜の頬から口唇をそっと撫でる。  嬉しそうに微笑む夏樹の顔を見て、雪夜も思わず口元が綻んだ。  あぁ……やっぱり夏樹さんは笑ってる方がいい……  いや、夏樹さんの表情を曇らせていたのは俺なんだけどさ……  夏樹さんには笑っていて欲しい……夏樹さんを笑顔にするのは俺でありたい……そう思った。    夏樹さんこそ、いい加減思い知ってよ……最初に俺の心を捕らえたのは夏樹さんの方なんだから……  俺の方がきっと愛は重い。  だからこそ、緑川に触れられたことが耐えられなかったわけで……触れられた……? 「……う゛……っ」  そうだ……ホテルでは何もされていないのかもしれないけど、少なくとも今日キスされたことは事実だ……  唐突に緑川にキスされた時の舌の感触と血の味を思い出して吐き気がした。  口を押さえながら夏樹から離れて急いでトイレに走った。 「雪夜っ!?」   ***

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