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どんなに暗い夜だって… 7-2(雪夜)
二人のお説教(というか、何だか親が小さい子どもに言い聞かせているような状態だったけれど)が落ち着いた頃、相川が満 を持 して口を開いた。
「コホンっ!え~と、とりあえず……雪ちゃんも反省してるし、緑川のことは一応解決したんだし、今回はもう一件落着ってことでいいんじゃないの?」
「まぁ、そうだな……」
「じゃあ、もうお説教はそれくらいで終わり!」
佐々木が珍しく素直に相川の言葉に頷いた。
「でもね、雪ちゃん!いくら俺らを巻き込みたくなかったからとはいえ、俺らにずっと嘘ついて一人で暴走しちゃったんだから、今俺らの中では雪ちゃんの信用はガタ落ち状態だからね?しばらくはまた大学内では俺らが付きそうし、送り迎えは夏樹さんがする。で、もちろん夏休み中の残りのバイトは中止だからね!!」
うん、信用がガタ落ちなのは仕方ないと思う。だけど……
「えええええええええ!!!!バイト中止って何っ!?え、嘘でしょ!?」
雪夜が思わず叫んだが、三人とも至って真面目な顔で見つめて来る。
「俺……バイトできないの?残りのバイト全部!?」
残り少ない夏休み。
雪夜は単発のバイトがいくつか決まっていた。
まだ長期バイトができない雪夜にとっては夏休み中にできる数少ないバイトだ。
それができないとなると……また貯金が……
「全部です。残りの夏休みはずっと俺らの監視下に置かれます」
相川がわざと重々しい雰囲気を出して顰め面をする。
監視下と言うと強制的な感じがするが、要はみんな雪夜を心配しているので、不安定だった時のようにずっと一緒にいてくれるということだ。
「いやいや、ずっとって……佐々木も相川もバイトあるだろ?」
「ちょうど俺らのバイトは来週から平常シフトにしてもらうから大丈夫。というわけで、明後日は俺らと一緒に遊園地行くぞ」
「……へ!?遊園地?」
「うん、遊園地」
マヌケな声を出す雪夜に相川がまだ顔を顰めたまま答える。
「……え、誰と?」
キョロキョロと見回す雪夜に、佐々木が無言で自分と相川と雪夜を指差した。
「三人で!?え、待って、でも……」
「夏樹さんも一緒がいいか?」
「いや……あ、嫌ってわけじゃなくて、夏樹さんとも行きたいけど、えっとそうじゃなくて……」
もちろん、夏樹とも行きたいし、二人とも行きたい。
でも……行きたいけど……
残りのバイト行けなくなったら俺……お金が……
遊園地は確か、入園料が結構高かったはずだ。
これまでの夏のバイト代で行けなくはないけど、行っちゃったら夏樹さんへのプレゼントが買えなくなっちゃうし……
――雪夜は、バイト代が入ったら夏樹に何かプレゼントを買うと決めていた。
そのプレゼントを選んでいる時にたまたま緑川先生に会ったり、夏樹の浮気現場(勘違いだったけど)に遭遇したりといろいろあったのだが、あの時、夏樹へのプレゼントを選んでいたということは、佐々木たちにも話していない。
そして、緑川先生の一件の後、雪夜がまた不安定になるのを心配して夏樹がずっと傍にいてくれたので、結局夏樹へのプレゼントはまだ買えていないのだ。
「雪夜、どした?」
佐々木が雪夜を覗き込む。
「あの……えっと……遊園地は……今回はやめておくよ。人がいっぱいのところは今はちょっと……不安だし……だから、二人で楽しんできてよ!あ、心配しなくても、バイトは行かないから!残りの夏休み中は、ずっと家でいるから俺ひとりでも大丈夫だよ」
お金がないから行けないなんて言ったら、みんなが気にしちゃうし、夏樹さんが出すって言うだろうし……
だいたい、佐々木たちだって、ようやく俺のお守から解放されたところだったのに……
つまり、残りの夏休み期間中、俺が家で大人しくしていれば、みんなに迷惑かけずにすむってことでしょ?
雪夜が我ながら名案!という顔で笑って三人を見回すと、なぜか三人はため息交じりに顔を見合わせていた。
「雪夜、これな~んだ?」
佐々木が何か手に持って雪夜の前でひらひらと振って見せた。
「え?なにそれ?」
「遊園地の無料招待券」
「無料招待券?」
「そう、タダで入れるんです!俺がバイト先のおばちゃんから貰ったんだよ~。ほら、俺ってば、老若男女問わずモテモテだから?」
相川が隣で得意気に笑う。
「だから、雪ちゃんもいこう?」
「え……」
キョトンとする雪夜に三人が優しく微笑んだ。
あぁ、そうか……
雪夜が金に困っていることは、もうみんな承知のことだ。
きっと雪夜が行かないと言うこともわかっていたのだろう。
だから、ちゃんと先手を打っていたのだ。
「……うん!!」
みんなの気持ちが嬉しい。
ここまでしてくれているのだから、行かないという選択肢はない。
そんなわけで、仲良し三人組で遊園地に行くことになった――……
***
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